この日のプログラムは、クライスラーの「シンコペーション」からスタート。強拍と弱拍の正常なリズムをずらし、本来弱拍のところに強いアクセントを置いて動きを出すことの音楽用語であるシンコペーションをタイトルに持つ楽曲を、北川が弾むような明るさで弾き始め、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGは一気に陽気な雰囲気に包まれる。日下のピアノのリズムとも見事に呼応して、美しいメロディーが際立った。
初登場の第1曲目に選んだのは、クライスラーの「美しきロスマリン」。「愛の喜び」「愛の悲しみ」と共に、ヴァイオリンとピアノの為の小作品として非常に良く知られた楽曲だ。荒井の演奏には軽やかな中にも芯の強さがあり、高音の歌い方が素晴らしい。中間部もたっぷりと聴かせ、早くも「ブラーヴァ!」の喝采が飛んだ。演奏のあと改めて自己紹介をした荒井が、今日のピアニストで「私の先生です」と谷合千文を紹介。谷合は「見てお気づきと思いますが、今日は子供と一緒のステージです」と新たな命を育んでいることを語りながら、荒井を「ちょっと天然なところもあります」と紹介し、和やかな笑いがeplus LIVING ROOM CAFE & DININGを包んだ。
この日集まった観客がすうっと黒木の弾くピアノの世界に入っていけるように、と耳に優しいメロディが織りなすこの曲が一曲目となった。ご存知の方はおそらくニヤリとされるだろうが、プレリュードの第7番は太田胃散のCMでおなじみの曲。そのメロディが聴こえてくるとそれまでおとなしく聴いていた観客の表情に変化が。微笑みを浮かべる人、連れと顔を寄せて「あの曲だね」と語り合う人……子どもたちも「どこかで聞いた事がある!」と身を乗り出し黒木の演奏に耳を傾けていた。
まず金子のソロによるバッハ無伴奏チェロ組曲 第1番からの演奏でスタート。チェロ独奏用の楽曲として取り分け親しまれている名曲を、金子が深い低音から美しく響き渡る高音で、豊かに届けてくれる。拍手の中サンデー・ブランチ・クラシックではお馴染みの顔の金子が「こういう距離感での演奏会が大好きです」と挨拶し、改めて高木をステージに呼び込む。初登場の高木はLIVING ROOM CAFE&DININGが大好きで、渋谷に来るたびに食事やティータイムに訪れていたので「ここで演奏できることが嬉しいです」と語り、早くも和やかな空気が会場を包み込む。
柔らかな微笑みを浮かべて實川が登場。ドビュッシーのベルガマスク組曲の中で、最もポピュラーに知られている『月の光』の演奏がはじまった。街並みの屋根屋根を美しく照らす月の光や、吹き渡る風の音を感じさせる『月の光』を實川の静謐で澄み切った音色が描き出していく。ドビュッシーならではの和声感も美しく、全体に強い音=フォルテではなく、遠くまで響く音=フォルテ。弱い音=ピアノではなく、近くで囁く音=ピアノ、という感覚が貫かれている抑制の効いた見事な演奏に、 LIVING ROOM CAFE & DININGの空気が一気に集中していくのが感じられた。
まずモーツァルトの「4手のためのピアノ・ソナタ ニ長調 K381 より 第1楽章」からスタート。モーツァルトの音楽の個性でもある、作曲家が音で遊んでいるかのような軽快なイメージが、二人の掛け合いによってさらに増していく。そこにデュオならではの迫力が加わり、オープニングに相応しい華やかな演奏になった。
1曲目はフランスの作曲家ドゥメルスマンの「ファンタジー」。自身がフルート奏者であり、フルートの為の楽曲はもちろん、サックスという楽器を考案したアドルフ・サックスの友人で、音楽史上初めてサックスの為の楽曲を作曲したことで、非常に重要な存在である、ドゥメルスマンがアルトサックスの為に書いた楽曲。華やかで力強いピアノの前奏が世界観を創る中に、本堂のバリトンサックスが、太く魅力的な音色で豊かなメロディを響かせる。
午後1時。この日の1曲目の演奏が始まる。キラキラと静かに輝くようなピアノの音に続いて、鈴木のヴァイオリンがメロディを乗せる。鈴木の音色は、例えば澄んだ透明な泉も深ければ深いほどに底の方はどんどんと濃い色を湛えていく、そういった味わいがある。泉の深淵を覗き込んでいるような、独特の魅力が感じられるのだ。そこに加わる齊藤のピアノは、泉に降り注ぐ木漏れ日のようだ。木々を通して泉の表面に光が差し込み、水面がキラキラと反射しプリズムのように輝く、絶妙なデュオだ。
1曲目はラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調作品3-2「鐘」。ロシアの作曲家ラフマニノフの楽曲の中で最も有名なもののひとつだが、日本では特にフィギュアスケートの浅田真央がこの曲でオリンピックシーズンを滑ったことで、更に広く知られる著名曲となっている。そんな名曲を弾く髙木の演奏は、遠くから聞こえてくる鐘の音を極めて繊細に奏でるところからはじまり、その美しい響きがLiving Room CAFE&DININGでは普段ほとんど気にならない、食器の音が大きく感じられるほど精緻な空気感を醸し出す。
冒頭に演奏されたのは、20世紀ポーランドを代表する音楽家であり、政治家でもあったイグナツィ・ヤン・パデレフスキ「5月のアルバム」 作品10より 第1曲 「夕べに」。高名なピアニストであると同時に、第1次世界大戦中、当時まだオーストリー・ハンガリー二重帝国の統治下にあったポーランド独立の為の運動を繰り広げ、1919年新生独立ポーランドの首相を務めたことでも知られるパデレフスキの、作曲家としての一面には、近年再評価の気運が高まっている。この「夕べに」も非常に美しいメロディーを持つ小品で、石田の演奏は精緻で静かな中に、豊かな強弱の幅があり、フォルテも決して鋭い音にならず、澄み切った美しさがあるのが、楽曲の美点を際立たせるものになった。
9月の声を聞き、夏の猛暑がひと段落したような日曜の午後1時。この日の客席はほぼ満席という盛況ぶりだ。登場した2人の1曲目は、ヴィヴァルディ『四季』より「秋」の1楽章という、こうした日にはぴったりの演目だ。ヴァイオリンとピアノの軽快な旋律が収穫の秋、実りの秋を喜ぶ人々の情景を描き出す。土岐によると、楽譜にも「農民たちが収穫の秋に楽しく飲んだり歌ったり踊ったりという情景」を表現するよう記述があるという。黄金に実った畑のなかで、畠道をゆく荷馬車の上で、農民たちが笑顔で歌い踊る、素朴な幸せに満ちた光景が広がるようだ。
1曲目はドニゼッティの歌劇 愛の妙薬より「人知れぬ涙」。村の娘アディーナの流した涙を見て、自分が好かれていることを悟った農民の青年モネリーノが喜びを歌う、テノールリサイタルなどでも頻繁に取り上げられる有名なアリア。長のファゴットの滋味深い音色で奏でられるメロディーには、静かに訴えかけてくるものがあり、永原のピアノも決して主張し過ぎず繊細でいて、美しい音色でメロディーを支える。明るさの中にも温かさがある印象的な1曲になった。
二人がサンデー・ブランチ・クラシックに初登場したステージは、まず飯尾のチェロのソロによるタヘルの「フラメンコ」からスタート。スペインの情熱的なダンスを想起させるエキゾチックな重音に、チェロのピッチカートの重さが曲のキッパリとした趣きを引き出し、堂々とした演奏になった。
始めはフンメルの「幻想曲」。ヴィオラ独奏曲として有名な1曲で、フンメルがモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』等の著名なメロディーを用いながら、オリジナルの音楽を絡めて構成されている。18世紀に流行した楽曲の形態で、原典へのリスペクトにあふれているのが特徴だ。そんな楽曲の世界観を原嶋の前奏が堂々と重厚に提示し、田原のヴィオラの深い音色のもの悲しいメロディーが引き立たち、低音の逞しさ、高音の力強さに改めてヴィオラという楽器の豊かさを感じる。明るいパートにも大人の雰囲気があり、ヴィオラの深みとピアノの華やかな高音の掛け合いも楽しい演奏になった。
・・・盛夏に相応しくテーマは「海」。ステージサイドには、これぞインスタ映えと思えるディズニーが描く美しい海の世界にインスパイアされたオブジェも飾られて、リビングルームカフェ&ダイニングが期待感に包まれる中青木が登場。演劇の世界ではお馴染みの、「波かご」(※柳行李に和紙を貼ったものなどに、小豆を入れてゆっくり揺すり、波の音の効果音出す方法)を使った「波の音」を自ら創り出して聞かせたあと、演奏がはじまった。
1曲目はバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」。二人の演奏には遊び心がありつつも、哀愁のメロディーをたっぷりと聴かせたり、スタッカートを多用したコケティッシュさが際立ったりと曲が移り変わるごとに多彩な変化を聴かせて楽しめる。コハーンのクラリネットはある時は蛇使いを連想させるエキゾチックさも秘め、中野のピアノがダイナミズムに移っていくにつれて豊かになり、演奏全体がダイナミックに。クラリネットとピアノが呼応して盛り上がる第6曲「速い踊り」では二人の息がピッタリとあって、パッショネイトなフィナーレに拍手が贈られた。
まず1曲目はウクライナ出身の作曲家でありピアニストのニコライ・カプースチンの「ビッグ・バンド・サウンズ」。ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフなど近現代の作曲家に強い影響を受けたカプースチンは、クラシック音楽をベースにしつつ、ジャズやラテンロックなどの様々な現代音楽のリズムや感性を取り入れた独自の世界を展開していて、Kyleが特に好きな作曲家だという。演奏からはカプースチンの音楽世界への愛がダイレクトに伝わり、登場時には緊張している様子も見られたKyleだったが、曲に入り込むにつれて堂々とした雰囲気を醸し出していく。ビッグバンドの響きをピアノで表わした楽曲に、どこか哀愁があるのが個性を感じさせ、満員の観客が早くもKyleの紡ぎ出す世界観に聞き入った。
二人がサンデー・ブランチ・クラシックの冒頭に選んだのは、サン=サーンスの「白鳥」。チェロと言えば! でおそらく誰もが真っ先に思い付くだろう超有名曲だが、大定番だからこそ金子のチェロがたっぷりとたゆたうように奏でられる様のふくいくさが伝わってくる。坂本のピアノの水の流れを思わせる音色も美しく、ハイフェッツ編曲による後半の重音が印象的な演奏になった。
そんな二人が登場したサンデー・ブランチ・クラシックは、まずシューマンの「献呈」からスタート。シューマンが最愛の妻クララに贈った連作歌曲集『ミルテの花』の第1曲に位置するこの曲は、シューマンが結婚式前夜にクララに捧げた曲として知られている美しい愛の歌だ。人の声の響きに最も近いと言われるチェロの音色が、この歌曲にベストマッチ。パクのチェロの歌心と、岡田のピアノの繊細さが一瞬にしてリビングルームカフェ&ダイニングを、豊かな音楽世界に包んでくれる。
・・・そんな空気の中に登場した「アレグロカルテット」は、女性陣が全員鮮やかな真紅のドレス姿。まるでカフェに一気に花が咲いたように艶やかな上に、女性たちが立ったままというのが、カルテットとしては珍しい興趣を生む。チューニングの音から期待感がいっぱいになっての1曲目は、モーツァルトの「ディベルティメント K.136」モーツァルトの弦楽四重奏曲の中で最も有名な楽曲だ。
コンサートのはじめは現代音楽の作曲家カーゲルのRrrrr…5つのジャズ的小品より「リード」。大学では文学と哲学を学び、前衛音楽に関心を持ち独学で作曲を学んだカーゲルは、ユーモアにあふれた音楽劇を推し進めた作曲家として知られ、演奏中に指揮者が倒れることを指示した「フィナーレ」など、ユニークな発想の楽曲が有名。その中でもアルトサックスの為に書かれたこの曲は、ジャズアドリブのような激しさがやがて切なさに変換されていくソロが印象的だった。
冒頭に披露されたのはショパン12の練習曲作品10第5番「黒鍵」。練習曲=エチュードと名付けられたピアノ曲の中で、最も有名なものが「ショパンエチュード」と言われる作品群で、練習曲という位置づけながら音楽的にも非常に完成度が高く、更に難易度も高い楽曲の宝庫だ。「黒鍵」と称されるこの曲も演奏会などでも頻繁に取り上げられる超有名曲で、変ト長調で作曲され右手による主旋律がほぼすべて黒鍵で演奏されることから、この通称が広く知られている。金子の演奏は華やかでダイナミックでありつつ、音色が実に軽やかで、黒鍵だけで演奏されるスリリングさを超越した明るさにあふれるオープニングとなった。
1曲目はラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調作品3-2「鐘」。フィギュアスケートの浅田真央がバンクーバーオリンピックのフリースケーティングで使用し銀メダルを獲得したことで、国民的に知られたクラシック曲のひとつとなっている。三浦の演奏は始めに遠くから響いてくる鐘の音が荘厳で、中間部は激情的にひと際速いテンポとなり、両手で旋律が重ねられていく。後半の鐘の音の重なりは非常にダイナミックで、やがて静かに余韻を残して音が引いていくと、ため息のような拍手が贈られた。
1曲目はモーツァルの「ヴァイオリンソナタ第25番より第1楽章」ヴァイオリンとピアノの協奏的な融合が特徴的な作品で、ピアノが伴奏ではなく、明らかに二重奏ソナタの楽想で創られている1曲だ。その成り立ちに相応しく、酒井のピアノの珠を転がすような軽やかな音色が、二瓶のヴァイオリンの豊かな音色を引き立てる。モーツァルトらしい明るさ、心弾むメロディーが奏でられ、クライマックスの掛け合いにも二人が互いの音楽に呼応し、セッションしているような特段の躍動感があり、見事なフィニッシュに拍手が湧きおこった。
この日の会場はほぼ満席。人気急上昇中の實川の登場とあって、客席には女性客も目立つ。午後1時、リサイタルが始まる。 1曲目はショパンの「スケルツォ第3番 嬰ハ短調 Op. 39」。一瞬不穏な印象を抱かせる冒頭から男性的な強さが垣間見える主題部。そして中間部の「レースのような」と称される美しい分散和音。風でふわりと広がるレースのカーテンからこぼれる光に、ピアニッシモの和声がそっと影を挿す。そして終盤の力強いコーダへ。「ショパンは実は男性的で骨太な、男っぽいところがある」と1曲を終えて語る實川の言葉に、なるほどと思わせられる。
冒頭を飾ったのはスターダスト・レビューが1993年に発表した「木蓮の涙」。愛する人に先立たれた深い悲しみを歌った楽曲が、ひそやかなソロからはじまり、やがてハーモニーが重なり、彌勒のカウンターテナーがオブリガードのように歌われると、曲想が静かに、だが切々と伝わってくる。やがてカウンターテナーの高音域にメロディーが移ると、4人のハーモニーはより深く厚みを増して、吉田のピアノもしっとりと寄り添い、しみじみとした世界観がカフェを包み込む。静かに音が消えていくとため息と共に大きな拍手がわき起こった。
まず最初に歌われたのは、ヴァイオリニストとして、また指導者としても活躍したイタリア人、ティリンデッリの代表曲の1曲「おお春よ」。春の訪れの喜びを歌ったこの曲が、天日のピアノの華やかな前奏から鈴木の豊かな歌声で響き渡ると、カフェが瞬時にして音楽にあふれ、聴衆が聞き入るのが伝わる。曲はゆったりした部分から、後半へと徐々に盛り上がり、輝く高音が伸びてフィニッシュを迎えた途端、早くも「ブラーヴァ!」(女性アーティストに向けた「ブラボー!」)の声があがった。
最初に披露されたのは、ヴァイオリンの名曲として広く親しまれているクライスラーの「愛の喜び」冒頭から溌剌としたヴァイオリンとピアノの音色が響き渡り、軽快に進む。中間部ではヴァイオリンのメロディーはより美しく、ピアノはより軽やかに。歌うヴァイオリンにリズムを刻みながら寄り添うピアノに一体感があり、高らかに盛り上がった演奏に、客席からは大きな拍手が。1曲目とは思えないほどカフェの空気はヒートアップする。
若きピアニストが清楚な白のドレス姿で登場すると、カフェは温かな拍手で満たされる。その会場に向かって太田は「今日の東京渋谷はとても暖かく、大阪よりもひと足早い春を感じました」と挨拶。「春を意識した楽曲を用意してきましたが、まずその春に向かう前の季節から」とのことで演奏が始まった。
3月18日に登場したのはヴァイオリニストの但馬有紀美だ。今年がデビュー3年目となる但馬はヴァイオリニストのユニット「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」のメンバーの1人で、SBCは初登場となる。今回ピアノを弾く阿部大樹は桐朋学園大学院時代の同級生だ。若い2人の瑞々しい素直な音色には、心がすっとリフレッシュされるような清々しい力があった。
まず開幕を飾ったのはモンティの「チャルダーシュ」。ヴァイオリンとピアノで演奏されることが多い楽曲だけに、フルートとピアノという組み合わせがとりわけ新鮮だ。簡素なピアノの序奏から、もの悲しいメロディーがフルートでたっぷりと奏でられ、やがてテンポをあげ、演奏は軽快に進む。途中ピアノでも美しいメロディーが響き、曲が明るい長調へと転調すると、フルートとピアノが共に掛け合うように演奏され、一気にフィナーレへと駆け上った。
国際的に活躍する藤井香織、裕子姉妹の共演だからだろうか、この日の会場はほぼ満席で、時々外国語も聞こえてくる、普段とはちょっと違った雰囲気だ。 時間となり、登場した2人の1曲目はゲイリー・ショッカー作曲『後悔と決心』だ。裕子によるピアノのロマンティックな、流れるような音色と共に、香織のフルートが「歌」を奏でる。
午後1時。時間となり登場した滝は華やかな赤、黒、白のワンピース。1曲目はベートヴェンの『ロマンス第2番』だ。甘くロマンチックなメロディに、音の装飾が細やかで美しい。夢見心地にさせられる。
公演開始の午後1時。赤いドレスに身を包んだ土岐が登場し、ぱっと空間が明るくなる。1曲目はクライスラーの『シンコペーション』。ウキウキと弾むような曲に、ときどきうっとりするようなメロディ。まだ寒さも残る小春日和の街をそぞろ歩き、通りがかった街のカフェで温かい飲み物をいただきホッと一息つくような、そんな気分だ。
若き気鋭のピアニストが、初めて『サンデー・ブランチ・クラシック』へ登場するとあって、ステージに熱い視線が集まる中、高木が涼やかに現れた。拍手の中演奏された1曲目は、ベートーヴェンの「エリーゼのために」。ピアノ学習者が発表会で演奏する楽曲として、今なお根強い人気を誇る、小品ながら誰もが知る名曲中の名曲だが、高木の演奏は、そうしたピアノ学習者たちが演奏する時よりも、むしろゆったりとしたテンポで奏でられ、あくまでも繊細な響きが実に新鮮。会場が一気に静まり返り、その美しい音色に聞き入った。
冒頭、ヴァイオリンリサイタルの、アンコールピースとしても親しまれているエルガーの「愛の挨拶」を、クラシックの正統的な美しい旋律で小瀧が奏ではじめる。そこに、ヴァイオリンが加わるか?と思わせた刹那、演奏はリズミカルに弾け、 益子侑ならではの軽快な「愛の挨拶スペシャル」へ。馴染み深いメロディーだからこそ、益子自身による編曲の軽やかさが生き、リビングルームカフェは、一気に益子ワールドに染め上げられる。
1曲目はシューベルト「即興曲変ト長調 作品90-3」。實川の透明で気品に溢れた音が、ノスタルジックな味わいを漂わせる甘いメロディを奏でる。まるで何かを語りかけてくるような音色が会場に染みわたる。三連符の一音一音が優しく歌う傍ら、左手の低音部が心の深いところから、何か不安な思いを訴えかけてくるように響くのが印象的だ。
拍手とともに舞台に登場した鈴木と吉武は、早速1曲目を披露してくれた。最初の曲目は、ブラームス作曲「スケルツォ(F.A.Eソナタより第3楽章)」。ヴァイオリンの刻む忙しない音型から、曲は始まる。ヴァイオリンとピアノの掛け合いは、激しくステップを踏み、跳躍するような印象を与える。初めに提示されるメロディーは悲愴だが、気品も感じさせる。
1月14日に登場したのは声楽ユニット「文代fu-mi-yo」だ。中須美喜(ソプラノ)、萩野久美子(ソプラノ)、大平倍大(テノール)、石井基幾(バリトン)の4人が、モーツァルトの名作オペラ『フィガロの結婚』を初上演。本来なら上演時間約3時間の主要な登場人物だけでも10人はいるというオペラをわかりやすく、しっかりストーリーの本筋にものっとって45分で熱演した。歌と共に熱演を繰り広げるメンバーのパフォーマンスに、時には笑いも起こった楽しいひと時をレポートしよう。
まずはじめに、樋口が長年タッグを組んでいるゲストピアニスト金井信がステージに立ち、軽快な前奏を奏ではじめると、樋口が客席の後方から登場。驚きにどよめく客席を練り歩きながら、ヴェルディの『リゴレット』より、マントヴァ公爵のアリア「あれかこれか」を歌う。
年の瀬も押し迫ったクリスマスイブ、12月24日に登場したのは鈴木舞(ヴァイオリン)&加藤大樹(ピアノ)だ。鈴木はすでに本イベントではお馴染みの音楽家。今回は加藤と初めて組んでのコンサートである。現在ミュンヘンに拠点を置きながら活動する鈴木と、パデレフスキ国際ピアノコンクールを通してポーランドに縁のある加藤。曲目もモーツァルトやブラームスといったドイツ・オーストリアと、シマノフスキ、パデレフスキというポーランドゆかりの音楽家のものが取り上げられ、どことなく異国情緒漂う、中央ヨーロッパの風が吹き抜けるような演奏が繰り広げられた。
最初の曲はショパンの「即興曲第1番変イ長調Op.29」。1837年に作曲された“即興曲風”に演奏される曲だ。冒頭のトリルがキラキラと輝き、まるで音符が粒のように踊っているようだ。A-B-Aの3部形式の音楽で、中間部の短調部分は滑らかにしっとりと、そして再びの主題は軽やかに。気持ちのいい冬の日差しが感じられた。
ピアノの和音に続けて、弦楽器が耳に馴染みのあるメロディーを奏でる。ビートルズの「ノルウェイの森」だ。歌いだしたくなる叙情的なメロディーが、弦楽器の中で受け渡される。メロディーはユニゾンで弾かれるだけでなく、カノンのように重なり合って豊かな表情を見せる。音楽は徐々に盛り上がり、情熱的なクライマックスをつくって終わりとなる。
登場した米津&小瀧は1台のピアノに並んで腰かけ、一呼吸。低音のトレモロが響き、始まった曲は「カルメン・ファンタジー」だ。ビゼーのオペラ『カルメン』の有名なフレーズをちりばめて編曲されたもので、オーケストラや吹奏楽をはじめ、様々な楽器のアレンジで演奏されている。今回は森亮平の編曲による連弾バージョン。
『OTOART』は「子供の感性を通して芸術表現の可能性を引き出す」ことをコンセプトとしており、子連れで楽しめるコンサートだ。この日も会場には小さな子供を連れた親子連れが多く、いつもとは違った雰囲気。そしてこれまでは子供たちをステージ前に集めての演奏&パフォーマンスだったが、3回目となる今回は子供も客席からステージを観賞するというスタイルが採られた。ステージ上にはピアノの向こうにプロジェクター。そして右手には絵の具など画材が並んだテーブルが置かれ、中山が描いた絵がスクリーンに映し出される。
11月19日に登場したのは、ジャズピアニストの細川千尋だ。2013年、モントルー・ジャズ・フェスティバル(世界三大ジャズ・フェスティバル)のソロ・ピアノ・コンペティションで、日本人女性としてはじめてファイナリストとなった。最初の曲は、細川自身のオリジナル曲「Holiday」。涼しげに流れるような導入部に続けて、心を躍らせるようなメロディーが現れる。ジャズ特有の跳ね回るようなリズムも相まって、明るく屈託のない印象を与える。自由闊達で、聴き手をとてもリラックスした気分にさせてくれる。
今年10月に行われた「第86回日本音楽コンクール」声楽部門で1位を授賞した、ソプラノの鈴木玲奈が登場した。聴き手の心をほっと和ませるような安心感のある歌唱、和やかなトークも板についていて、満員の客席は盛り上がり、1曲歌い終わるたびに「ブラボー」が飛び交っていた。
まず1曲目はエルガーの「愛の挨拶」。ヴァイオリンの数ある名曲の中でも、1、2を争うほど一般知名度の高い、多くの人々に愛されている佳曲だけに、ヴァイオリン・リサイタルなどでは、アンコールピースの定番ともなっているが、その耳に馴染んだ美しいメロディが冒頭で演奏されるのは『サンデー・ブランチ・クラシック』ならでは。小寺の奏でる華やかな音色が、会場を一気にクラシック音楽の世界に誘う。
午後1時。黒の上下に真っ白のジャケットを羽織った伊藤と、真紅のドレス姿の福原が現れ、拍手で迎えられた。まずはおなじみ、エルガーの「愛の挨拶」から。ブランチにふさわしい、爽やかで上品な調べが耳に快い。チェロが時折脇に回ってピアノが主旋律を奏でたり、リピートのたびに音色やニュアンスが変化したり。2分半程の曲に、聴く者を飽きさせない工夫がちりばめられており、演奏終了と同時に「ブラビー!」の声が掛かった。
1曲目は、ショパン作曲「バラード第1番 ト短調」。曲の導入は、重々しく悲愴な序奏だ。テンポの取り方は遅めで、流麗さを保ちつつ重厚さを演出する。緊張感を保ったまま、沈痛な印象のメロディーが出現する。全体にテンポのゆらぎが大きく、内面にあふれる情念が表現されていた。
ピアノが優しげに刻むリズムの上に、ヴァイオリンの息の長い旋律が重なる。メロディーは物憂げで、じっと物思いにふけっているような印象を与える。ヴァイオリンの旋律に込められた情感は徐々に高まっていき、締め付けるような切ないクライマックスをつくる。ピアノ伴奏は単純なリズムが中心だが、ダイナミクスやテンポのゆらぎをつくり、音楽に変化をもたらしている。音楽は終わりに向けて落ち着いていき、ヴァイオリンの中低音域の暗めの音色を響かせながら、静かに閉じられる。
10月8日に登場したのはピアニストの福原彰美だ。この秋、福原は15年振りのCDとなるソロアルバム『ブラームス ピアノ小品集』をリリース。その発売記念も兼ねたこの日の公演では、そのアルバムの中から『6つのピアノ小品 Op.118』『4つの小品 Op.119』が演奏された。心の内面の奥底に染み入るような音色は、木々が黄金色に色付く季節にぴったり。
拍手と共に登場した千葉&須藤の1曲目はビバルディの『四季』より協奏曲第3番ヘ長調RV.293「秋」。弾むようなヴァイオリンの音色とピアノの演奏は、黄金色に色づいたのどかな田園に実りの喜びがあふれ、うきうきと楽しくなってくるようだ。どこかで耳にしたことのあるお馴染みのメロディは親しみやすく、客席は一気に2人の世界に引き込まれた雰囲気。掴みはばっちり、という感じだ。
9月24日に登場したのはバリトン歌手の高橋洋介だ。この日の公演は、高橋にとってドイツ留学から帰国し、日本に拠点を据えて音楽活動を再開すると決めた、最初の一歩。「旅」をテーマとして自身が選んだ一曲一曲に、新たなる決意と思いがこめられていた。歌詞の日本語訳の朗読を交えて披露されたマーラー「さすらう若人の歌」は、新しい試みであるとともに、ピアノの天日悠記子との息の合った演奏が圧巻。会場と一体となった、胸の熱くなるひと時だった。
9月17日は、今年8月にスイスで行われた“若手ピアニストの登竜門”『クララ・ハスキル国際ピアノコンクール』で優勝し、現在話題となっている期待の新星ピアニスト・藤田真央が登場した。台風が日本列島に上陸したこの日はあいにくの雨。しかし会場にはたくさんのファンが訪れ、いまかいまかと主役の登場を待っていた。
のびやかで穏やかな音が、eplus LIVING ROOM CAFE & DININGの空間を満たしていく。閉じた空間では、金管楽器は耳への刺激がかなり強いのでは、という心配は杞憂に過ぎなかった。息遣いまで伝わる空間だから、語りかけるような微妙なニュアンスまで伝わるのは当然だが、ドラマチックに盛り上がっていく部分も耳に心地よいのだ。
3回目の登場となる1966カルテットの今回のテーマは「UKロック・ヒストリー」。彼女らが礎とするビートルズに加え、ザ・ローリング・ストーンズ、スティング、エリック・クラプトンやクイーンなどの楽曲をにぎやかな女子トークとともに初披露してくれた。
・・・ここからの曲目は、ディズニー映画の音楽を多数作曲しているアラン・メンケンの作品となる。まず演奏されるのは、『美女と野獣』より「プロローグ」だ。重々しい低音が鳴らされたあと、きらめくような華麗なメロディーが始まる。悲壮感のあるテンポの急速なメロディーが駆け抜けると、一旦静かな雰囲気となる。ちょうど夢の中にいるような、ロマンティックな曲だ。
軽やかに踊るようなピアノの序奏に続けて、朗々とした歌が始まる。マッティナータとは敬愛する人のための歌で、明け方に歌われるのだという。そうした曲の性質から、曲調は情熱的で、かつ朝の陽光を思わせる爽やかさにあふれている。のびやかな歌声は、胸から湧き上がる喜びを率直に表現していた。
8月13日に登場したのはピアニストの海瀬京子と、静響こと静岡交響楽団の第一トランペット奏者を務める小島光博だ。海瀬は『サンデー・ブランチ・クラシック』への出演は今回が2回目。小島との共演は静響での演奏がきっかけだという。この日は、小島が3種類のトランペットをそれぞれ使いながら高らかに時に優しい音色を響かせ、海瀬もまた夏の暑さを忘れるような涼やかな曲を奏でてくれた。
あっという間の30分だった。いきなり結論になってしまい恐縮だが、今回演奏された4曲はそれぞれに物語が感じられるような、曲の表情が豊か。まるで小さなドラマストーリーを4本見終えたかのように抒情性あふれる音色だったのだ。1曲目はショパン「スケルツォ 第2番 変ロ短調」。主題、転調、主題とクライマックスの華やかなコーダへの流れは起承転結が感じられる。歌うような転調部分が美しく、そこへ「転」を感じさせる重厚感のある主題がなんとも効果的に響く。そしてリリカルに晴れ晴れしくハッピーエンドを迎えるような、そんな世界観が奏でられる。
ヴァイオリニストの松田と、現代アートを追求する中山晃子がコラボレーションする本企画は、5月21日の第一回開催からこの日で二回目を迎える。中山は、色鮮やかな液体が偶然に作り出す模様と、その変化を実演する“Alive Painting”というパフォーマンスで知られており、プロデューサーである松田は自身も幼い子供を持つママヴァイオリニスト。『OTOART』は、クラシック音楽と現代アートがコラボすることに加え、コラボを見た子供たちがどんなことを感じるのか、その感性も含めてステージを作りあげるという、いわば“クラシック音楽×現代アート×子供たち”による企画である。
最初の曲は、D.ワトキンス作曲「火の踊り」だ。非常に繊細に、しかし軽やかなリズムを感じさせながら音楽は始まる。やがて登場するメロディーは、軽快で楽しげな印象だ。ハープらしい優雅さとともに、時折ハープのイメージと異なる激しい動きも見せる。
7月16日に登場したのは今注目の若手ピアニスト、18歳の藤田真央だ。数々の国内外のコンクールで1位を獲得し、14歳でCDデビューしてからは、2013年に初めてのリサイタルを開催し、以後日本国内はもとよりポーランド、ドイツ、イタリアなどで定期的に演奏を行ってもいる。人気の若手演奏家・藤田真央の出演とあってか、この日の客席はほぼ満席。制服姿の中高生やピアノのお稽古をしていそうな子供のいる家族連れの姿も見え、若き「音楽家」たちやファンにとって、藤田は憧れの存在であることがうかがえる。
すらりとした長身に真っ赤なドレス姿の田代の登場に、それまで客席で聞こえていたおしゃべりの声が、しんと静まり返った。始まった1曲目はマーク・サマーの「Julie.O(ジュリー・オー)」。マーク・サマーはヴァイオリン2名にヴィオラ、チェロの弦楽四重奏団「タートル・アイランド・ストリングス・カルテット」のチェリスト。クラシックの弦楽四重奏の構成でオリジナル曲をはじめ、様々な音楽を演奏するグループで、ジャズに分類されてはいるようだが、むしろボーダーレス、ノンジャンルと言ってもいいかもしれない。
7月2日の日曜日は、夏らしい陽気の一日だった。日曜日の午後、食事をしながら気軽にクラシックを楽しめると好評の『サンデー・ブランチ・クラシック』。この日は、出演者にピアニストの坂本真由美を迎えた。13:00の開演時刻、拍手とともに舞台に登場した坂本は、さっそく演奏に入る。1曲目は、モーツァルト作曲「きらきら星変奏曲」だ。誰もが口ずさんだことのある、お馴染みの愛らしいメロディーで始まる。このメロディーが、次々と異なった表情に作り替えられていく
6月25日は、まだ20代半ばのヴァイオリニスト二瓶真悠とピアニスト黒岩航紀のデュオが登場し、ヴァイオリン名曲集ともいうべき小品を並べたプログラムで客席を沸かせた。最初にドヴォルザーク作曲の『4つのロマンティックな小品』より「第1曲アレグロ・モデラート」が演奏された。楽譜上の指示は決して遅くはないのだが、それに比べるとかなり遅めのテンポであったことも驚かされた。でも、それ以上に意外だったのは・・・
今回は初となるミニ・オペラ。本コンサートのために結成された「文代fu-mi-yo」の4人の歌手、中須 美喜、萩野 久美子、大平 倍大、石井 基幾が美声を披露した。ピアノ伴奏は小池 真衣。メンバーは全員が東京藝術大学に在籍していた時の同級生で、グループ名もメンバーが平成2、3、4年生まれということに因んでいる。開演前から、若き才能の熱演を楽しみに待つ観客で会場は満員となり、公演への期待の高さが窺われた。
本格的に夏らしい陽射しになってきた6月11日の日曜日。この日、渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで行われた『サンデー・ブランチ・クラシック』では、チェリストの西谷牧人とピアニストの新居由佳梨が登場した。開演時刻の13:00、拍手を受けながら登場した西谷と新居は、早速演奏を披露してくれた。最初の曲は、ラヴェル作曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」。
50分間が余りにも短く感じられるほど、充実のライブを繰り広げた1966カルテット。なんと9月3日に、サンデー・ブランチ・クラシックへ再登場するという。新しい試みも披露されるとのことで、聴き逃すことのないよう今から手帳に書き込んでおきたいところだ(予約は8月3日から開始)。終演後のサイン会などを終えた彼女たちに、短い時間の中でたっぷりと話を聞かせていただいた。
ソロ演奏よりもパワフルで楽しく聞こえ、ピアノが身近に感じられる連弾。プロの世界ではコンビを組んで常時一緒に活動するケースが多いが、今回の『サンデー・ブランチ・クラシック』に登場したデュオ、米津真浩と小瀧俊治は、ともにソロ奏者だ。米津はすでに3回ほど『サンデー・ブランチ・クラシック』にソロ出演している。実はこの2人、10年余りの仲ということで昨年から時々、連弾の活動も共にしている。「大学の先輩後輩です(笑)」という言葉が示す通り、気心の知れた2人が繰り広げたのは、心がワクワクするガチンコ連弾だった。
5月21日に登場したのはヴァイオリン奏者の松田理奈(まつだ りな)。同コンサートに度々出演しているお馴染みの彼女だが、今回は自らがプロデュースした『OTOART vol.1「音×色」』を披露した。松田のヴァイオリンと、「Alive Painting」という色鮮やかな液体を使った映像パフォーマンスで知られるアーティスト中山晃子(なかやま あきこ)とのコラボレーションである。クラシック音楽と現代アートという二つの世界を子どもの感性が繋いでいく。
5月14日は、国際的な活躍が期待される新鋭ピアニスト岡田奏(おかだ かな)が出演。15歳でフランスに渡り、以来10年のあいだパリ国立高等音楽院で研鑽を積んだ岡田は近年、日本でもオーケストラと共演する機会も多い。今後ますます注目される存在になっていくことが確実視されているピアニストだ(詳しい経歴についてはこちらのインタビューを参照)。今回、『サンデー・ブランチ・クラシック』のために組まれたプログラムには、軽めの小品なしのガチンコ勝負な曲目が並ぶ。
客席の後方から「翼をください」のアカペラが静かに始まると、聴衆は驚いた面持ちで、わらわらと振り向いた。ステージに向かってゆっくり歩みながら歌う山田姉妹のデュオ・ソプラノの澄んだ声が、客席をふんわりと包み込む。ドレスは揃いの淡いピンク。シックなカフェ空間に、二輪の花が微笑んでいるかのようだ。
13:00になると平野はアルトとソプラノ、2種のサクソフォーン(サックス)を持って舞台に登場。まずアルトをかまえて吹き出したのは、ヘンデルの有名なアリア「私を泣かせてください」だ。サックスというと、一般的にはジャズのイメージがまだまだ強いかもしれないが、ジャズとクラシック音楽ではサックスという楽器は別物といって過言ではないほど、奏者が目指すサウンドが根幹から違う。特に平野が奏でる音色はサックスという楽器に対するイメージが根幹から塗り変わって変わってしまうほど、極限まで柔らかで繊細だ。
4月23日は、権威あるフランツ・リスト国際ピアノコンクールで2016年に優勝したことが話題となったピアニスト阪田知樹が登場した。…会場に入ろうとすると、受付の段階で長蛇の列となっているという通常ではあり得ない状況に遭遇。実際あとでTwitterを確認すると、満席となってしまい入場できなかった方もいたとのことで、彼が現在どれほど注目されているかがこの段階で伝わってくる。
冒頭から、テンポの速い華やかなメロディーが奏でられる。左手が軽やかな跳躍を見せるが、リズムが崩れることは決してない。バロック音楽らしく、一定のテンポを機械的に保ちながら演奏される。それでいて、1つ1つの音は丁寧につくられており、優しく温かい印象を与える。
4月9日は英国を拠点に若くして輝かしいキャリアを築き、現在は旺盛な演奏活動の傍ら、メニューイン音楽院やギルドホール音楽院で後進の指導にもあたっているヴァイオリニストの小野明子が2回目の登場。今回は共演歴も10年になる、気心の知れたギタリスト益田正洋と共に、時代もジャンルも様々な音楽を聴かせてくれた。
4月2日は両名ともに国際コンクールで上位入賞するなど、華々しい活躍で注目されるヴァイオリニスト鈴木舞と、ピアニスト實川風(じつかわ かおる)が登場した。…20代半ばにして既に10年の共演歴を誇る、気心の知れたデュオなのだ。
開演30分前に会場に着くと、中高年の世代を中心に驚くほど多くの方々が既に来場されており、普段とは異なる熱気が会場中に満ちあふれていた。開演前から聴衆の方々が、本日のコンサートをどれほど楽しみにしているのかが、伝わってくるかのようであった。
13:00の開演時刻に向けて満員の会場は静かに盛り上がっていた。2人が舞台に登場するとともに、早速披露された1曲目は、ラヴェル作曲「ヴァイオリン・ソナタ ト長調より第2楽章」だ。冒頭では、ヴァイオリンのピッツィカートで刻まれたリズムがピアノに移る。やがてピアノの刻むリズムに乗って、ヴァイオリンが息の長いメロディーを奏でる。作曲当時の流行だったブルースのように、陽気さと哀愁を感じさせる旋律だ。
前回の出演時は、自身の似顔絵がプリントされた「功次郎Tシャツ」を衣装にまとってステージにあらわれた藤原だが、今回は「オケマン(オーケストラプレーヤー)」にとっての正装である燕尾服を着用して登場。ピアノの前奏に導かれて聴こえてきた旋律は、スタンダードナンバーの「アメージング・グレイス」だ。
拍手で迎えられるなか、ピアノの前にむかう海瀬。一呼吸置いてから、彼女が最初の1音を弾きだした瞬間……おもわず息を呑んだ。いつもと同じグランドピアノであるにもかかわらず、普段とはまったく異なる響きが立ち昇ってきたのだ。まるで戦前の古き良きヨーロッパを想起させるような、繊細で雅やかな音色で聴こえてきたのは「春の想い」。シューベルトが作曲した歌曲を、フランツ・リストがピアノソロに編み直した楽曲である。
何かを追い求めるような、息の長い旋律が提示され、幾度もメロディーが繰り返されているうちに、少しずつ音楽は盛り上がりを見せ、緊張感を高める。やがて、曲想は憂いを帯びた悲愴な音楽へ。人の声に近いと言われるオーボエの音色のおかげで、確かにイタリア・オペラのアリアを彷彿とさせた。
2月19日に登場したのは、東京藝術大学の同級生を中心にして2011年に結成された「ぱんだウインドオーケストラ」のメンバーによる、小編成の「こぱんだウインズ」だ。大編成では難しい小回りの効く柔軟さを売りにした“こぱんだ”は、過去に『題名のない音楽会』へ16名編成のこぱんだウインドアンサンブルが出演するなど活躍の場を広げている。今回はフルート三重奏として、大久保祐奈、高橋なつ美、林広真の3名がバラエティに富んだ曲目を聴かせてくれた。
1曲目に演奏されたのは、数多くのテレビや映画の音楽を手がける人気コンポーザーピアニスト村松崇継による「Land」という作品。この曲は、2001年頃にまだ駆け出しの作曲家だった村松がマリンバソロのために書き下ろしたもので、のちに国際コンクールの課題曲に選ばれたことで世界各地のマリンバ奏者がレパートリーとして取り上げるようになった(布谷もセカンドアルバム『種を蒔く人』に収録している)。
13:00、赤いドレス姿で登場した竹山は、早速演奏に入る。1曲目は、モーツァルト作曲「ロンドK.Anh.184」だ。冒頭から、華麗で伸びやかなメロディーが提示される。モーツァルトの演奏にふさわしい、上品で包容力のある音色だ。伴奏も曲調に合わせて、柔らかく優しい弾き方となっていた。
時間になると颯爽と現れた米津は、まず1曲目に誰もが知っているショパンの名曲「子犬のワルツ」を演奏しはじめた。子犬がかけずり回る様子を描いた有名な旋律にはじまり、中間部では子犬の愛らしさが描かれるわけだが、米津の演奏は一味違う。
1曲目は、ミヨー作曲『スカラムーシュ』より「ブラジレイラ」。冒頭から、踊るような快活なメロディーが奏でられる。明朗にメロディーを歌ったかと思うと、スビトピアノで音量を落とし強弱の対比を印象付け、サックスの持ち味である目にも止まらない早回しが軽やかに披露された。
安藤は2月2日に新国立劇場で開幕するジャコモ・プッチーニ(1858-1924)のオペラ『蝶々夫人』において、タイトルロールである蝶々さんを演じる。日本人プリマドンナにとって、日本人女性を題材にしたこの役は特別なものであるのは言うまでもない。
年明け一発目、2017年1月8日の『サンデー・ブランチ・クラシック』に出演したのは、ロンドン在住の小町 碧(こまち みどり)。幼い頃から長らく海外在住で、国際的に活躍しているヴァイオリニストである。そんな彼女が並々ならぬ思いを持って取り組んでいること、それはイギリス音楽の魅力を伝える普及活動だ。今回のライブでも20世紀前半に活躍した英国の作曲家たちと、彼らが残した宝玉のような作品を、短い時間を最大限につかって紹介してくれた。
鮮やかな花模様のドレスをまとって登場した小野は、さっそく楽曲を披露してくれた。1曲目は、ワーグナー作曲「ロマンス」。優しいピアノの序奏に始まり、ヴァイオリンが甘美な旋律を奏でる。開放的でのびやかな音が、曲の魅力を引き出している。
13:00、正戸は明るい薄紫のドレス、福原は鮮やかな青緑のドレスで、それぞれ舞台に登場する。早速2人が披露したのは、エルガー作曲「愛の挨拶」だ。優しげなピアノの伴奏に乗って、有名なヴァイオリンの旋律が奏でられる。愛情に満ちた曲想にふさわしい、伸びやかで明るい音色だ。
1曲目は、バルトーク作曲「チェルゲーの踊り」だ。速いテンポの曲は、冒頭からいきなり煌びやかな音を奏でて聴衆を引き込む。20世紀の音楽らしい不思議な響きだが、明るく楽しげな曲調である。金子は日本人とハンガリー人のハーフなので、バルトークは彼の祖国の作曲家ということになる。チェルゲーとはハンガリーの民族楽器で、それを使った踊りをイメージした曲だという。
最初の楽曲、シューマン作曲/リスト編「献呈」 を弾き始めると、それまでざわついていた客席が一気に須藤の演奏に引き込まれて行くのがわかった。この曲は元はシューマンの歌曲をリストがピアノ独奏用に編曲したもので、愛らしい旋律とは裏腹に難しい技術も多く要求される。しかし須藤はそんなことは微塵も感じさせず、女性らしい優しい音色で旋律を紡ぎ、繊細さと大胆さを合わせ持つスケールの大きな演奏を披露してくれた。
この日は「皆さんが必ず耳にしたことがあるクラシックを編曲、アレンジし、トロンボーンの良さや自分の良さを伝えたい」という観点から選んだというプログラム。・・・「次の曲は、きっと皆さんご存知の曲だと思います」と紹介し、イタリアの作曲家プッチーニが書いた歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」を演奏。名曲を、ピアノの伴奏に乗せトロンボーン一本で奏で上げ、その魅力を存分に聴かせた。
ソロ演奏や、他の種類の楽器とのデュオ、トリオ、カルテットなどでの演奏を耳にすることは多いかもしれないが、純粋にサクソフォンの音だけで作られた音楽に触れたことがある方は、まだ少ないのではないだろうか。4つのサクソフォンの音が紡ぐメロディは、軽快で、何とも言えず心が湧きたつ。自然と心と身体がスウィングしてしまうような、純粋なワクワクする感覚がこみ上げてきた。
この日、林が選んだのは「小さな空」「小さな部屋」「うたうだけ」「翼」の4曲。武満徹は、戦後にデビューした作曲家で、ストラヴィンスキーに見いだされ評価を高めたという。ポップ・ソングとして残されているものが多いが、林はクラシック歌手として、これらの楽曲を豊かな歌唱力で、真っすぐに歌い聴かせてくれた。
この日のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGには、2人のアーティストが登場した。一人は、日本フィルハーモニー交響楽団でアシスタント・コンサートマスターを務める千葉清加。もう一人は、日本だけでなく世界各国のコンサートや音楽祭にソリストとして招聘され活躍するピアノの坂本真由美だ。
ドレッシーな装いで、揃ってステージに登場した2人が、音を合わせ、呼吸を合わせ、まず演奏してくれたのはシューマン作曲(アウアー編曲)の『献呈』。作曲者であるシューマンが、妻クララと結婚する際に贈った曲と言われる愛の詰まったメロディを、豊かなヴァイオリンの音色と優しいピアノの旋律で奏で上げる。…
大宮が一番好きなヴァイオリンソナタだというこの曲は、フランクが友人であったイザイへ結婚の贈り物として書かれた曲であり、フランクが生涯で唯一書き残したヴァイオリンソナタだ。ピアノとヴァイオリンが同じメロディで掛け合いながら紡いでいく音色が想像させる情景は、温かくなんとも言えない幸福感に包まれる。
「1曲目にはラフマニノフを演奏させていただきましたが、皆さんラフマニノフはご存知ですか?」という米津の問いかけに、次々と手が挙がる。ラフマニノフの楽曲は、フィギュアスケートの浅田真央選手が使用したりしているため、耳にしたことのある方が増えているのかもしれない。よかった、と笑顔を浮かべた米津は、さらに「ラフマニノフの身長がどれぐらいあったか、ご存知ですか?」と問いかけた。…
この日のリビングルームカフェは、開演前から熱心なオペラ・ファンで埋まっていた。いつもより少し年齢層が高いかもしれない。コルチャックは、まず、ラフマニノフの歌曲「美しい人よ、私のために歌わないで」を歌った。小澤征爾の愛弟子であり、ヨーロッパを中心に指揮者として活躍する鬼原良尚がピアノ伴奏を始めると場内は静まり返った。抒情的な声がプーシキンの詩を美しく響かせる(私はロシア語がわからないが、美しいロシア語に感じられた)。特に高音域での弱音表現が見事。
ザ・フレッシュメンと言えば、クラシックに乗せ“フォークソング”の数々を新たな形で演奏することをコンセプトとしているが、2人という特別編成ということもあり、「あえて“クラシック”、聞き馴染みのある名曲をメインとしたプログラムを」ということで、1曲目は、エルガー作曲「愛の挨拶」からスタートした。
秋はお祭りが多いということで「日本に様々な踊りがあるように、世界にもいろいろな民族の踊りがあるんですね」と、バルトーク作曲の「ルーマニア民俗舞曲」が紹介された。この曲は、「棒踊り」「帯踊り」「足踏み踊り」「ブチュム人の踊り」「ルーマニア風ポルカ」「速い踊り」の6曲で構成されている。ダンスで感情を表すように、演奏にも感情が乗る。
まず1曲目に演奏されたのは、CDにも収録されているサティ作曲の「ジムノペディ」第1番。実に穏やかなメロディで知られるこの曲は、セラピーなどにも用いられることがあるそうで、まさに“癒しのクラシック”だ。ピアノの音色が、じんわりを胸の奥を温めてくれる。
黒いシックなワンピースに身を包み、ステージに一人登場した新倉は、まず、ソロでバッハ作曲「無伴奏チェロ組曲」第1番を披露。これは、10周年記念コンサートのプログラムにも用意されていたもので、一足先に堪能することができた。
登場してくれたのは、音楽祭『ラ・フォル・ジュルネ』などでも活躍する仲田みずほ&ロー磨秀によるピアノデュオ。クラシックからジャズと幅広い選曲で、連弾だけでなく、ピアノソロ、弾き歌いなど盛りだくさんな内容で、ピアノの魅力を余すことなく披露してくれた。
13時の第1部開演時、会場の雰囲気に合わせて、ごく自然に登場した米津は、早速演奏に入る。1曲目は、シューベルト作曲・リスト編曲「ウィーンの夜会」だ。激しく跳ねるような情熱的な場面と、優雅に歌うような叙情的な場面の対比がとても鮮やかで、曲の表情は目まぐるしく変わるが、場面の転換の仕方も丁寧でそつがない。
1曲目には、フォーレ作曲の「ロマンス 作品28」が演奏された。鈴木は、「今日は“ロマンス”をコンセプトに曲を選んできました。ヨーロッパでは、日曜日の朝はゆっくり起きて、ブランチを取るという習慣があります。このライブも『サンデー・ブランチ・クラシック』ですので、そのゆったりと時間に身をゆだねる雰囲気に合うように、このコンセプトにしてみました」と挨拶する。
大きな拍手で迎えられ、一人ステージに上がった長谷川が椅子に腰を下ろすと、カフェには静寂が訪れた。一呼吸を置いたあと、優雅に滑り出した弦が奏で始めたのは、バッハ作曲「無伴奏チェロ組曲第一番」より『プレリュード』だ。無伴奏だからこそ、音色の表情が優しく浮かび上がる。
松田自身が「こんな企画をOKしてくれるところは他にないのでは……」と語っていたが、なんとこの日のライブは30分丸々“コンチェルト”というプログラム。コンチェルトと言えば、オーケストラをバックにソリストがせめぎ合う形で演奏されるものだが、それをヴァイオリンとピアノだけでやり遂げるというのだ。このスタイルは、コンクールなどでは見られる形式だが、あまり演奏会などで披露されることはない。それ故に、大変貴重な機会となった。
岩崎は「このカフェの雰囲気は、アメリカのブルックリンの雰囲気にとても近い気がしているのでこの曲を……」と、アメリカ・ブルックリン出身の作曲家、ガーシュインの「ファッシネイティング・リズム(魅惑のリズム)」でアンコールに応えた。この他、第2部ではドビュッシー作曲『アラベスク』第1番、ショパン作曲『バラード』第4番 へ短調などが演奏された。
ピアノに手をつき一呼吸を置くと、顔つきがガラリと変わった。ピアノの連打による前奏から始まったのは、オブラドルス作曲『エル・ビート』だ。この曲は、スペインのアンダルシア地方に伝わる民謡の旋律をテーマに書かれた曲で、少しノスタルジックな雰囲気を含みつつ情熱的なメロディを、全身を使い豊かに歌い上げた。
…最初に登場した上野耕平は、優しい笑顔で会場を見渡すと、囁きかけるように演奏を始めた。上野がこの日の1曲目に選んだのはボノー作曲「ワルツ形式によるカプリス」。難易度の高いクラシカルサクソフォンの名曲を、無伴奏の中すいすいと吹き上げていく。滑らかに、時に歯切れよく。時折、上野の呼吸の音まで聞こえる。
…続いて、イタリアの大衆歌謡曲「フニクリ・フニクラ」を披露。日本でも馴染みの深い軽快なメロディに、会場からは手拍子が沸き起こる。二人も、手を叩きながらゆっくりとステージを降り客席の近くに来てくれた。クラシックの歌手の歌声は、ステージで聴いていても迫力満点なのだが、目の前で聴くとさらに肌がビリビリするような威力がある。これはコンサートホールではなかなか味わえない、“カフェ”という空間の近さならではの感覚だ。
リーダーの松浦の「ビートルズ満載のプログラムでお送りしたいと思います!」という挨拶から、ビートルズの名曲が2曲続けて奏でられた。2曲目に演奏されたのは、「プリーズ・プリーズ・ミー」。こちらは、日本で2枚目に発売された曲だ。林のチェロと江頭のピアノが刻むリズムの上で、ヴァイオリンの二つの音色が伸び伸びと跳ねる。3曲目の「イン・マイ・ライフ」は、曲の持っているノスタルジックな雰囲気が強調され、より柔らかな印象に。4人の演奏は、ポップなメロディを目にも耳にも楽しく届けてくれる。
「僕、ピアノを弾いているんですが、専門は作曲です。作曲といっても、作曲する現場に皆さんが触れる機会は少ないんじゃないかなと思いまして……」と、加藤はこの日のコンセプトを“即興の作曲”に掲げた。まず最初に提示されたのは、「好きな音を3つ決めて」というお題だ。ピアノの白鍵は、ドレミファソラシドの七つの音だけ。この中から、自由に好きな音を決めてほしいと言うのだ。「言葉は、単語や文法を知らないとなかなか話せないものだけれど、音楽は7つの音さえ知っていれば、誰でも音楽で語れるんですよね」と加藤は話す。…
クラシックに乗せフォークソングの名曲を蘇らせることをコンセプトとしているザ・フレッシュメン。この日のプログラムにも、懐かしく耳馴染みのよいラインナップが揃っていた。1曲目に演奏されたのは、デビューCDの1曲目も飾っている「いちご白書をもう一度」(作詞:荒井由実/作曲:荒井由実)。ばんばひろふみが率いたフォーク・バンド バンバンの楽曲であり、作曲者の松任谷由実自身をはじめ、数多くのアーティストにカバーされている名曲が、クラシカルアレンジされ新たな表情を見せた。
今か今かと樋口の登場を待ちわびる場内ではステージに注目が集まる中、歌声が聴こえてきたのはなんと会場の真後ろ(しかも客席)だった。一斉に振り向く聴衆の視線を浴びながら樋口が朗々と歌い上げたのは、ヴェルディ作曲オペラ『椿姫』より「乾杯の歌」。生声の迫力・その美しさに皆が圧倒される中、やっとステージに上がった樋口は「今日、偶然いらしたというお客様はいらっしゃいますか?あ、いらっしゃいますね。嬉しいですね~」と問いかけながら笑顔で会場を見渡す。
6月最初の日曜日。LIVING ROOM CAFE by eplusには、一台の見慣れぬ楽器が・・・。ピアノに似ているけれども鍵盤が二段あり美しい装飾がほどこされ、どこか優雅な気品を漂わせるその楽器は、“チェンバロ”だ。大きな音を出す楽器ではなく、環境に左右されやすい楽器のため、あまりバーやカフェでチェンバロの演奏は行われていない。曽根自身、カフェでの演奏は初めてということで、この日のライヴは大変貴重な機会となった。
オープニングは、ぱんだウインドオーケストラといえばこの曲!木管五重奏バージョンで聴かせる前久保諒作曲「PANDASTIC!!」で華々しく幕を開けた。フルート(大久保祐奈)、オーボエ(山本楓)、クラリネット(藤田華)、ホルン(矢野健太)、ファゴット(皆神陽太)という編成で“さざれクインテット”と名乗った彼ら。グループ名は「国歌の中にも登場する“さざれ石”は、小さな石のかけらが長い年月をかけて溶け合って、ひとつの大きな石になっていると聞いたので、自分達も一人一人の力はまだ微力ながら、団結していい音楽をつくっていけたらいいなと思ってつけた」そうで、若々しいながら5本の木管が溶け合うチームワーク抜群の演奏を聴かせてくれた。
定刻になり、静々とステージに登場した林は、客席に一礼しピアノに向かうと、ゆっくりとカフェ空間にメロディを染み渡らせていく。林と言えば、なんといっても“楽曲編曲”。あのクラシックの名曲が、こんなアレンジで!という、驚きと楽しさ溢れる演奏で新たな命を吹き込まれていくのだ。
定刻になると、スマートなスーツ姿と優し気な雰囲気をまとった金子がステージへ。ゆっくりと呼吸を置き、ピアノの前に座る。そして奏でられた一音目のあまりの鮮烈さに、くらくらした。この日の1曲目に演奏されたのは、ショパン作曲エチュード「革命」だ。
ゆったりと優雅な旋律……。繰り返されるアルペジオは水の上を滑らかに進んでいくような……その曲は、『動物の謝肉祭』より、サン・サーンス作曲「白鳥」だった。パネルに描かれていた鳥のシルエットに、普段子どもたちからは「ひよこ!」「アヒル!」といった答えが上がるという。「曲を聴いてイメージが変わった?」という奥村の問いかけに、この日も「アヒルから白鳥に変わった!」と、子どもから声が上がっていた。
…今か今かと観客がステージを見つめる中、美しいドレスを身にまとい悠然とした佇まいで登場した山口。すうっと息を吸い込むと、柔らかなピアノのメロディに乗せてその美声で会場を包み込んだ。この日の1曲目に選ばれたのは、ヘンデル作曲 歌劇『リナルド』より「私を泣かせてください」。
1曲目に選んだのは、イタリアの歌謡界で最も愛されているジーノ・パオリ『潮の香り』。甘いメロディに乗せて、香りが運ぶ愛の思い出を歌い上げていく。続いて歌ってくれたのは、イタリアのスーパースター、ミーナの『パローレ・パローレ(邦題:パローレだけの愛)』。“パローレ”というのは、イタリア語で“言葉”という意味で「男の人はいつも言葉ばっかりだけなんだから・・・という女性の心を歌い上げた歌です」と前川が紹介したように、男性の不確かな態度に揺れる女性の心情が歌われている。…
この日1曲目に演奏されたのは、シュヴァ―プ作曲『スコットランドの子守唄』。優しい旋律を奏でるヴァイオリンとピアノの音色が絡み合って、会場を包んでいく。松田は、この曲との出会いについて「この曲の作曲家は、いくら調べてもあまり情報が出てこない方なんですけど(笑)。前に、ラジオで流れていたのを聞いて“なんの曲だろう?”と探し回って、やっと出会えた曲です」と語り、弾いていてとっても楽しい!と顔をほころばせた。…
時刻は午後1時、定刻になるとステージに林そよかが女性らしいピンクの花柄のワンピースで颯爽と登場。一礼するとすぐに1曲目のエルガー作曲『愛の挨拶』(林そよか編)を弾き始めた。JAZZ風にアレンジされた名曲を軽快なリズムで紡いでゆく。そよかの女性らしい繊細でキラキラした音色が一気に会場を包み込んでいった。曲の終盤、今までとは一転して拍子が変わり、ワルツ調に変化する部分など、聴く側を飽きさせない、そよかの編曲能力の高さが伺えた。…
まず、1曲目に歌われたのは、モーツァルト作曲 オペラ『フィガロの結婚』より「もう飛ぶまいぞこの蝶々」。第一幕の最後、伯爵に軍隊行きを命じられた小姓ケルビーノにフィガロが歌いかけるこの曲を、宮本は一人で魅せていく。時に励まし、時にからかい、情感豊かに。あたかも、そこにもう一人、いるようなステージから、目が離せなくなる。360度取り巻く客席全体に響き渡らせる渾身のロングブレス!…
燕尾服を身にまとい、颯爽と現れたLa Dillの4人。まずは、1曲目にヴェルディ作曲 歌劇≪椿姫≫第一幕より『乾杯の歌』を披露してくれた。この曲は、オペラの中でコーラスとともに男性ソリストと女性ソリストが掛け合いを聴かせる楽曲。男性4人のグループだが、女性パートはカウンターテナーの彌勒が担当し、メンバーが一節ずつ歌い回していく。彌勒の高く澄んだ声と、金山のテノール、坂下と岩田のバリトンが混ざり合い、大迫力の『乾杯の歌』となった。…
…「今日は、私の好きなバッハをたくさん聴いて頂きたいなと思っておりまして」と平野。「3月と言えば、卒業式ですね」と、続いて演奏してくれたのは、バッハ作曲『主よ人の望みの喜びよ』。まさに、この季節特にぴったりの一曲だ。ここで、「ただ演奏するのではなく、これにちょっと僕たちなりのアレンジを加えて・・・」と、平野の十八番ともいえる即興がメロディの中に織り込まれる。なめらかに天まで駆け上がっていくような幸福感に、二人の即興が紡ぎだす高揚感。カフェに光が満ちていくような、不思議な気持ちになった。
昨年12月に明かされていた共演が、ついに実現する日がやってきた。あっという間に予約が埋まったこの公演、この日を指折り数えて待っていた方も多いのではないだろうか。超満員となったLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplusで開催された第17回「サンデー・ブランチ・クラシック」には、クラシックサクソフォン奏者の上野耕平と、ピアニストの反田恭平が登場した。…
定刻になり、少々緊張気味の面持ちで、音程を合わせる4人。しかし、始まってしまえばそんなことは微塵も感じさせないメロディを紡ぎだす。この日の1曲目に演奏されたのは、イベール作曲『小さな白いロバ』。ひづめの音を思わせるスタッカートや、陽気な旋律を息の合った演奏を聴かせた。…
…『星の降る森』と名付けられたこの曲は、これまでもマリンバとの共演経験が多く持つ志村が、マリンバとピアノで演奏するために作り上げた曲だそうで、志村は「木でできているマリンバを“森”、ピアノのキラキラした音を“星”に見立て、自然の音を表現した曲になっています」とその作曲意図を明かした。この曲を最初に聞いた塚越が「なんてロマンチックで、メルヘンで、ピュアな曲なんだろう!と思いました」と評したように、音色に乗せ心温まる絵本のようなイメージが脳裏に広がるような、素敵な一曲となっていた。(音源化を希望!)…
「さて、続いてなんですが…」と、岩崎は後ろを振り返り、何やら小さな袋を手にして見せた。「今日はこうしてお顔の見える距離なので、ここからは皆さんと一緒にプログラムを決めたいなと思います」と、袋から取り出したのは数枚の封筒。「今日はバレンタインデーということで、ラブレターを書きました」封筒の中に入っているのは、岩崎からのメッセージカードと曲名を書いたピアノのハンマー。なんと、それを3名の方にくじ引きで引いてもらい、その場でプログラムを決めるという。サプライズに会場は驚きに包まれた。…
光田とともに颯爽と登場した柏木。それぞれスタンバイをすると、アイコンタクトで呼吸を合わせ、演奏が始まった。この日、一曲目に演奏されたのは、マックス・スタイナー作曲『タラのテーマ』。映画『風と共に去りぬ』のテーマとしてよく知られる曲だ。チェロの優しい音色にピアノの伴奏がそっと添えられ、耳馴染みのよいメロディを紡いでいく。…
麻衣の歌声は、日本人なら誰しも一度は耳にしているのではないだろうか。なぜなら、麻衣は宮崎駿監督作品に欠かせない作曲家・久石譲の娘であり、「ラン ラン ララ ランランラン…」で知られる『ナウシカ・レクイエム』の歌声の主なのである。この日は、旧知の楽曲や、久石譲のオリジナルのギターパート入り楽曲、今回の為にギター用にアレンジした楽曲などを、「弾き語り」で聴かせてくれた。…
この日、1曲目に歌われたのは、映画『リトルマーメイド』よりアラン・メンケン作曲『パート・オブ・ユア・ワールド』(日本語版)。メインの旋律を華と麗の二人の声が追いかけながら、いつしか絡み合うように美しいハーモニーを紡ぎ出す。川﨑の奏でるピアノが、二人の声と陸の世界への憧れを乗せて上に上にと誘うようで、聞いていてゾクゾクするような感覚を覚えた。続けて、同じく映画『リトルマーメイド』からアラン・メンケン作曲『アンダー・ザ・シー』(日本語版)が軽快に流れ出す。…
…続いて演奏されたのは、ピアソラ作曲『リベルタンゴ』。ピアソラの代表的なレパートリーでもあるこの曲は、様々な楽器で演奏されているが、クラリネットのみの演奏で聴くとまた表情が違う。リズムを刻む低音の上で、センチメンタルなメロディが時に緊張感を持って踊る。クラリネットの温もりある音はどこか懐かしく、曲の魅力を別の一面から聴かせてくれた。…
期待に満ちた拍手の中、登場した田村は一礼後にすっと背筋を正し客席を見渡した。この日の1曲目に選んだの は、J.S.バッハ=グノー作曲『アヴェ・マリア』。伴奏を務めるピアニスト・直江香世子の演奏に乗せて、美しい声 が鼓膜を震わせる。その一声一声に、空気が澄み渡っていくようであり、思わず食事をする手を止めて聴き入ってしまう 人が続出していた。…
「今日はちょっと寒くなってきたということで・・・」と今回、松田が掲げたのは”冬に聴きたくなる曲たち”というテーマ。「皆さん、じっと聴かなくて大丈夫ですからね(笑)食べて飲んで、温まってください」と呼びかけつつ、1曲目には、ピアニスト・小森谷裕子の伴奏に乗せ、ストラヴィンスキー作曲『イタリア組曲』より3曲を披露してくれた。この曲は、バレエ音楽であった『プルチネルラ』をヴァイオリンとピアノのために編曲したもの。全6曲で構成される組曲だが、演奏後に松田は「今日は音符の少なめな曲を選んで演奏しました」と選曲のポイントを明かした。…
にこにこと笑みを浮かべながら登場した上野。首から下げたアルトサックスをさっと構えると、1曲目、ピアソラ作曲『アディオス・ノニーノ』からライブはスタートした。この曲を日本語訳すると“さよなら、父さん”。その名の通り、ピアソラが亡き父のために捧げた曲である。タンゴのようなリズムから、センチメンタルなメロディへ。自在に変貌する曲調をなぞる上野は、実に表情豊かだ。1曲目を終えると、上野はさっと手を広げ、本日の伴奏を務めるピアニスト・塚本芙美香を紹介。そして、茶目っ気たっぷりに「本日は30分という短い時間ですが、超盛りだくさん!なので、是非お料理でもお腹いっぱいに、そして音楽でもお腹いっぱいになって頂ければと思っております」と挨拶。…
クラシック、ポップス・・・歌い手としてそれぞれの顔を持つ北野。この日のライブの選曲は、そんな北野ならではのラインナップとなった。まず、1曲目には、堀倉彰のピアノ伴奏を伴ってカッチーニ作曲『アヴェマリア』を聴かせてくれた。『アヴェマリア』というと、シューベルト作曲のものをよく耳にするが、実はクラシックには同タイトルのものが何十曲もあるという。北野は、「本日ボーカルを務めさせて頂きます、クラシックソプラノ、シンガーソングライターの北野里沙と申します。今日はこんな小話なんかも含めて、ライブをしていこうと思います」という挨拶とともに、早速クラシックをぐっと身近に感じさせてくれた。…
爽やかで上品なブルーのドレスを身にまとった新倉が登場すると、会場からは大きな拍手が。それに応えるように一礼し、チェロを抱えすっと表情を変える新倉。まず、1曲目に披露されたのは、エルガー作曲『チェロ協奏曲 ホ短調 作品85より 第1、2楽章』。1918年に作られた楽曲で、新倉の新譜の1曲目、2曲目に収録されている曲である。印象的な重音から始まったこの曲は、ピアノ伴奏を伴いどこか悲劇的な響きを持って聴衆の耳に語りかけてくる。伸びやかである一方、力強い低音が心に染みいるようだ。流れるようなメロディの中、一拍置いて曲調が変化すると、第2楽章の幕開けだ。…
ギターを片手に、爽やかなジャケットスタイルで登場した村治。ぽーん、ぽーん、と二、三度音を確かめるようにつま弾くと、ゆっくりと優美なメロディを奏で始めた。1曲目に披露されたのは、アントニオ・カルロス・ジョビン作曲『フェリシダーヂ』。こちらは、耳にしたことがある方も多かったのではないだろうか。名作映画『黒いオルフェ』の主題歌となり、「哀しみには終わりがなく、幸せには終わりがある」という歌詞で有名なボサノバの名曲だ。…