舞台内外で活躍する俳優たち

イラスト

30代、20代、さらに下の10代と、次代の歌舞伎界を担う花形俳優を紹介する。
芸の青春時代を謳歌する彼らの成長を見守るのも、歌舞伎の楽しみの一つ。
それぞれキャラクターが違い、人数も多く、芸熱心で未来ある若手たちの活躍は、まぶしい限りだ。
文=川添史子

新世代のリーダーとして、
歌舞伎界を盛り上げる―
―尾上松也(おのえまつや)

形公演「新春浅草歌舞伎」で若手をまとめるリーダー。近年は歌舞伎座でも大役を任されることも増え、大躍進中。コツコツと自主公演「挑む」を続けており、自ら道をつくってきた努力の人である。最近の話題はなんといっても『半沢直樹』だが、バラエティ番組への出演も多く、歌舞伎を知らなくとも、存在を知る方が多いだろう。一昨年は初ドラマ主演『サボリーマン甘太郎』で、仕事を効率よく終わらせ大好きな甘味を食べ歩くサラリーマン役を過剰な熱で好演(ちなみに松也自身もスイーツ男子)。昨年はギャグ漫画の実写化『課長バカ一代』で主演を務め、捨身のコメディセンスを発揮した。新感線☆RS『メタルマクベス』disc2といった現代劇、『エリザベート』といったミュージカルでも活躍、山崎育三郎、城田優とのユニット『IMY(アイマイ)』でも活動中。

尾上松也

古風な味わいが出せる若手―
―中村梅枝(なかむらばいし)、中村萬太郎(なかむらまんたろう)、中村児太郎(なかむらこたろう)

中村梅枝
中村萬太郎
中村児太郎

味線・琴・胡弓を演奏する女方至難の役『阿古屋』を、坂東玉三郎の細やかな指導で受け継いだ中村梅枝と中村児太郎は、次代を担う女方として目が離せない。古典の大役に次々と挑む梅枝は、歌舞伎らしい古風な味わいが優美でうっとり。児太郎は品の中に不思議な色気がある女方。昨年、グリム童話を原作とした新作『本朝白雪姫譚話』で見せた嫉妬深い母親役が突き抜けていて妙に面白く、度胸と芸域の広さを感じた。
兄梅枝と共に飛躍を見せる萬太郎は、よく通る声、小気味いい演技が魅力的。『あらしのよるに』『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』『コクーン歌舞伎 切られの与三』など話題の新作でも活躍している。

中村梅枝
中村萬太郎
中村児太郎

新春浅草歌舞伎で実力を発揮―
―中村歌昇(なかむらかしょう)、坂東巳之助(ばんどうみのすけ)
坂東新悟(ばんどうしんご)、中村種之助(なかむらたねのすけ)
中村米吉(なかむらよねきち)、中村隼人(なかむらはやと)
中村橋之助(なかむらはしのすけ)、中村莟玉(なかむらかんぎょく)

中村歌昇
坂東巳之助
坂東新悟
中村種之助

正月の浅草公会堂で毎年開催されている「新春浅草歌舞伎」は若手の登竜門。メンバーは年によって入れ替わりだが、ここで大きな役に挑み、成長を見せる花形たちを紹介する。 端正なマスクで、線の太い、どっしりと正統派な演技を見せる中村歌昇。弟 種之助と続けている勉強会「双蝶会」では真摯な稽古が透けて見えるようで、地道に、確実に、地に足をつけて研鑽が積める堅実さが武器だろう。兄弟が勉強会で演じた役の数々を素顔で演じる動画が公開【双蝶のうたたね 2020 Soaring 監督・撮影はフォトグラファーの笹口悦民・約5分間の映像作品。】されたので、エネルギッシュな演技をぜひ映像で堪能あれ。

中村米吉
中村隼人
中村橋之助
中村莟玉

東巳之助は、古典はもちろん、スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』、中村隼人とダブル主演を務めた『新作歌舞伎 NARUTO―ナルト―』などの新作で、役そのものになり切る、人物造形への工夫・研究が光る。数年前、国立劇場「歌舞伎鑑賞教室」の司会をした際、太鼓の低いドンドンドンという効果音が何を表現しているか?というクイズで、中学生が「ポルシェ」と返答(正解は風音)。とっさに「こんな音が出たら修理に出した方がいいね」と切り返し会場に笑いが起こり、一気に場が和んだ。若い人の視点で歌舞伎の面白さを伝えられる人だ。
坂東新悟は、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』で小栗判官を一途に思う照手姫役にとにかく泣かされた。チャップリンの映画を歌舞伎化した『蝙蝠の安さん』で演じた目の見えないヒロインも印象深く、儚く純粋な役がこの人には似合う。
踊りの巧さに定評のある中村種之助は、キリッとした立役、可憐な女方どちらもこなせる花形。近年は三谷幸喜の新作『月光露針路日本』など新作でも活躍、『風の谷のナウシカ』の狂言回し役が絶品で、シェイクスピア『リア王』の道化のような面白さ、軽妙さがあった。
華があって愛くるしい中村米吉は、大役の抜擢が続く可能性のかたまり。最近は可愛らしさに艶も加わり、この人で見たい役もたくさん。まだまだ飛躍を見せてくれそう。とにかくトーク上手で、オンライントークイベント「歌舞伎家話(かぶきやわ)」「紀尾井町家話(きおいちょうやわ)」にゲストで出演した際は必見。司会番組希望。
歌舞伎界のイケメン代表のような容姿に恵まれた中村隼人は、正統派二枚目役がぴったり。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』、『新作歌舞伎NARUTO―ナルト―』、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』といった新作でも大躍進中。時代劇ドラマ『大富豪同心』では主演を務め、映像での活躍にも期待が高まる。
若手立役としてのびのびと成長する中村橋之助は、芸に真摯に取り組みながら、ギリシャ悲劇を原作とした『オイディプスREXXX』といった現代劇でも活動。昨年はドラマ『ノーサイド・ゲーム』に出演するなど、ジャンルを超えて活動している。
中村梅丸時代からその可愛らしさで人気だった中村莟玉。子役時代から歌舞伎俳優の楽屋にあずけられ芸を仕込まれる「部屋子」としてこの世界に入り、昨年、中村梅玉の養子となった。柔らかく、品がある舞台姿に定評があり、今後の活躍が楽しみだ。NHKの広島発地域ドラマ『舞え!KAGURA姫』でドラマ出演経験もあり、ナチュラルな演技が好印象だった。

多彩&多才、
エネルギー溢れる女方―
―中村壱太郎(なかむらかずたろう)

台からほとばしる情熱がひしひしと伝わる中村壱太郎は、先ごろそのバイタリティーを生かし、YouTubeチャンネルを開設。そこで新作舞踊まで発表し、才能豊かな表現力は、将来の筋力となるだろう。歌舞伎進化形でも紹介した「ART歌舞伎」では企画者として才能が炸裂! 上方歌舞伎の未来を担う貴重な人材。

中村壱太郎

ピカピカきらめく存在―
—尾上右近(おのえうこん)

代劇・映画・ドラマ・バラエティでも活躍する尾上右近。スーパー歌舞伎II 『ワンピース』の公演中に負傷したルフィ役の市川猿之助に代わり、残りの全日程で主演を勤めたことで一躍注目され、『風の谷のナウシカ』など新作歌舞伎にも出演のきらめく存在。自主公演「研の會」は、チケット発売日に完売する大人気公演だ。歌舞伎の伴奏音楽・清元では清元栄寿太夫(きよもとえいじゅだゆう)としても活動するスーパーマン。年360食(!)、歌舞伎界屈指のカレー好きとしても知られる。

尾上右近

将来への期待高まる10代―
―市川染五郎(いちかわそめごろう)、市川團子(いちかわだんこ)

本幸四郎の息子である市川染五郎、市川中車の息子である市川團子は、「東海道中膝栗毛」シリーズで弥次さん、喜多さんが巻き起こすトラブルを解決する若いお殿様の梵太郎と、お伴の政之助で名コンビを見せている。物静かな美少年の染五郎は15歳、ハキハキと利発な團子は16歳と同じ年代。このキャラクターの違いが、将来どんなコンビに成長していくか楽しみ。

市川染五郎
市川團子
市川染五郎
市川團子

全身全霊で挑む20代―
―中村鷹之資(なかむらたかのすけ)
片岡千之助(かたおかせんのすけ)

20代になったばかり、平成11年生まれの中村鷹之資、平成12年の片岡千之助。2年前に新開場した京都・南座、夜の部最終演目の舞踊『三社祭』に、未来しかない十代の二人が全身全霊で挑んだ姿は印象深い。その『三社祭』が、11月の国立劇場、第二部で上演中。必見!!

中村鷹之資
片岡千之助
中村鷹之資
片岡千之助

かにも、堅実な演技の中にユニークな味わいが見え隠れする市村竹松(たけまつ)とその弟 市村光(ひかる)、古風で品がよい大谷廣太郎(ひろたろう)&廣松(ひろまつ)兄弟、一般家庭から歌舞伎の世界に入り、誠実で真摯な修行を積んでいる中村鶴松(つるまつ)、現代的な甘いマスクの市川男寅(おとら)、スケールある役もぴったり合いそうな大きさを感じる中村福之助(ふくのすけ)、端正な舞台姿の中村歌之助(うたのすけ)、軽快な芝居で注目の中村虎之介(とらのすけ、国立劇場「歌舞伎鑑賞教室」の解説でファレルの曲に乗せて廻り舞台をぐるりと回転しながら登場し、リズムよく歌舞伎の魅力を紹介したのは最高でした)、スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』で複雑な役柄を好演した中村玉太郎(たまたろう)、尾上松緑の長男で活薬が楽しみな尾上左近(さこん)……次々に登場する注目の若手はここに書ききれないほど。この世代を追えるようになったらあなたも歌舞伎通。一生楽しめます。

学生にも「期待の新人」がひしめいているのが歌舞伎のすごいところ。尾上菊之助の息子で昨年七代目尾上丑之助(おのえうしのすけ)を名乗って初舞台を踏んだ寺嶋和史(てらじまかずふみ)くん(7歳)は勇ましい立ち廻り、見得を何度も決め、これまた立派。女優の寺島しのぶの長男・寺嶋眞秀(てらじままほろ)くん(8歳)も、のびのび愛らしい舞台姿が評判だ。八代目市川新之助を襲名予定、市川海老蔵の息子・勸玄(かんげん)くん(7歳)は、昨年「外郎売(ういろううり)」の貴甘坊役で約4分間の早口言葉を披露。立派な舞台姿に観客からは大きな拍手が送られた。坂東彦三郎の長男・亀三郎(かめさぶろう)くん(7歳)は、昨年はじめて女方に挑戦。丁寧に心を込めて演じる様子が伝わってきて微笑ましかった! 中村勘九郎の長男勘太郎(かんたろう)くん(9歳)&次男長三郎(ちょうざぶろう)くん(7歳)は、ちびっこながらもお父さん譲りの芸熱心さをひしひしと感じる舞台姿が印象的。フジテレビで定期的に放送されている中村屋密着ドキュメンタリー番組を見続けていると、もはや彼らの成長を見守る親戚気分だ。彼らの60代70代を見守るためにも、長生きしたいもの。歌舞伎ファンは欲が止まらない。

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