五嶋みどり＆藤田真央 能登半島地震被災地復興プロジェクト ホープ・コンサート 2024

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン（1770年-1827年）
ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第5番 ヘ長調 Op.24「春」

ベートーヴェンのソナタ 第5番 Op.24「春」の冒頭は、ヴァイオリンの曲の中でも最もよく知られているメロディーで始まっています。抒情的で温かさと、優しさに溢れたこの曲は、ベートーヴェンの思いやりのある理想主義的な側面を明らかにしています。曲中のエレガンス、ユーモア、のテーマは他の作品で印象付けられた緊張感のある情熱的な曲想からは意外ともいえる雰囲気の曲です。

1800年から1801年にかけて作曲された「春」は、ベートーヴェンのピアノとヴァイオリンのためのソナタ10曲のうちで4楽章で構成されている3曲中の一つです。ヴァイオリンとピアノという2つの楽器が、大変印象深い冒頭のメロディーに続いてテーマを交互に引き継ぎながらバランス良く常に歌い合う状態で進行し、双方の楽器が生き生きとし、どちらかが単なる背景となることはありません。

「春」はOp.23のソナタ 第4番とセットで、ベートーヴェンの最もよき理解者でパトロンでもあったモーリッツ・フリース伯爵に献呈され、古今、ヴァイオリンとピアノのソナタの中でも高く評価され、比類のない表現力によってこの曲はクラシック音楽の中で最も敬われ称賛されている曲の一つとなっています。

五嶋みどり

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト（1756-1791年）
フランスの歌「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲(きらきら星変奏曲)
ハ長調 K.265(300e)

本作は、フランスで流行していた歌曲「ああ、お母さん聞いて」の旋律を主題に用いた変奏曲である。なおこの歌曲は日本では「きらきら星」の名前でお馴染みだ。本作をドイツやスイス、フランスで演奏すると必ず笑いが起きるため、各国で親しまれているメロディなのだろう。この愛らしい旋律が12回繰り返されるが、現れる度に三連符やシンコペーションなどリズムが変容し、12通りの表情で楽しませてくれる。その中でも華麗で広大な曲想が採用されたり、はたまたぽつんと吐露するような変奏が訪れるなど、ダイナミクスの対比が魅力的だ。しかし万華鏡のような鮮やかな変化においても、常に主題のチャーミングさは失われない。両手を交差させるなどの技巧的な難所でも、和声の味わい深さや旋律のきらびやかさにはモーツァルトらしい音楽を感じられるだろう。最後の第12変奏に至っては、リズムのみならず拍子が変化し、三拍子に変奏されている点に秀逸さを感じる。作曲されたのは、モーツァルトがウィーンに滞在した1781年から82年頃と推測される。

藤田真央

ヨハン・セバスティアン・バッハ（1685年-1750年）
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータより
パルティータ第2番 ニ短調 BWV1004 第5楽章「シャコンヌ」

ヨハン・セバスティアン・バッハの「シャコンヌ」は彼の作曲した無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの内、パルティータ第2番 ニ短調の終楽章に位置し、クラシック音楽の歴史の頂点を極めています。

壮大な奥深さを秘めた「シャコンヌ」は、第2番のパルティータの他の楽章から独立して演奏されることがしばしばあります。べースラインを保ちつつ主題と変奏で織りなす16世紀のスペインの活気ある舞曲が、後にフランスやイタリアの宮廷音楽の影響を受けながら、洗練されたものとなっていきます。バッハの「シャコンヌ」も短調から始まって長調に移り、短調で終るという三部形式をとり、奥深さを秘めた、厳かで崇高なものとなりました。1720年頃、バッハがアンハルト・ケーテン公国のレオポルド王子の宮廷に仕えていた時代に書かれたと言われています。

ヴァイオリニストとしてこの曲に向き合うのは超人的な精神で臨むことを意味します。曲全体を通して複声を奏でながら、一貫した完璧な技術、荘厳な神秘性を保ちながら深い感情を追求していく集中力が求められているからです。一方で、このような作品を演奏することの出来る誉を感じるものなのです。

この「シャコンヌ」は、楽器、演奏家、芸術、が人間の表現できる芸術の域を追求するだけでなく、聴衆にとっても演奏家のアプローチを畏敬の念で受動する、双方の芸術を昇華させる作品だと確信します。

五嶋みどり

セザール＝オーギュスト＝ジャン＝ギヨーム＝ユベール・フランク（1822年-1890年）
ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調

ベルギーのリエージュで生まれたセザール・フランクは、家族問題や、移住先のパリで遭遇する厳しい音楽界の中でも、教会のオルガン奏者をつとめ、後進の指導にもあたり、フランス音楽界で最も尊敬される音楽家になりました。

フランク作曲による「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」は、美しく刺激的で感動的なイマジネーションに溢れ、彼特有の自由な調性と転調、クロマティシズム（半音階形式）、循環形式などが随所に使われています。 ロマン派時代のソナタ作品の多くは3つの楽章構成が多いのですが、古典（クラシック）なフォームともいえるこのソナタは、4楽章で構成されており、テンポがゆっくりな楽章と速い楽章が交互に組み合わされた“教会ソナタ”形式になっています。第1楽章は、しなやかで流れるようなメロディーで始まり、第2楽章は滑らかに情熱的な襞（ひだ）が重なっていきます。宣告的にスタートする第3楽章は、徐々に表情豊かな夢の世界へ導き、真摯に立ち向かってきた彼の人生観や賢明さを感じさせます。最終楽章の特徴はヴァイオリンとピアノによるカノン形式の展開で、ピアノのメロディーを追うように4拍遅れてヴァイオリンが同じテーマを演奏します。この楽章で、フランクの作品の代表的ともいえる循環形式による、作品前述のテーマの再現から避けることのできない運命と希望を彷彿とさせ、達成感のある有終の美で終わります。

この作品は、ベルギー出身のヴァイオリニストである友人のウジェーヌ・イザイの結婚のお祝いとして、1886年に贈られ、イザイによって初演されて好評を得、以後、彼は多数の演奏旅行でこの曲を演奏しました。演奏者、聴衆、批評家にも高評価を受け、コンサートプログラムでは最も演奏回数の多いレパートリーとなっています。また、ヴァイオリンのパートはフルート、ビオラ、チェロ、コントラバスなどに編曲され、世界中で愛され続けています。

五嶋みどり

タイトル

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