山口祐一郎×武田真治

山口祐一郎×武田真治さんから動画メッセージが届きました!

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e+ special interview  Part2 山口祐一郎×武田真治

 

 エリザベートの「生」との対極にある「死」を擬人化した死神・トート。この物語の色彩を決定づける重要なキャラクターを演じるのは、2000年の初演からトートを演じ続けている山口祐一郎と、2006年にこの難役でミュージカル初挑戦を果たした武田真治の2人だ。キャリアもルックスも面白いほどに対照的な両者だけど、人間ではない役を演じているためなのか、ふとした発言や空気感に、やや不思議めいたモノを漂わせる時があるのは共通しているかも……ちょっと哲学的な匂いすら感じさせる独占インタビューです。

 

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『「世界5大ミュージカル」というくくりがあれば、間違いなくその中の1本に入る作品だと思います』(山口)

──まずお2人は『エリザベート』という作品は、どこが魅力だと思ってますか?

山口 ただの計算では創られていない、いろんな魅力を秘めた作品であるという点ですね。本来そこに存在しない「死」という概念を、トートという形で具象化していますが、たとえば彼は本当はエリザベートの分身で、本来は彼女と同じ姿形をしているのではないか?  などと、観る方に自由な解釈を許して下さる。リアルに創られた芝居に比べるとはるかに縛りが少ないぶん、自分の感覚や感性を存分に膨らませることができるのは、とても幸せなこと。シェイクスピアの4大悲劇とかのように「世界5大ミュージカル」というくくりがあれば、間違いなくその中の1本に入る作品だと思います。

武田 ミュージカルとしては、本当に世界最高峰の作品なんでしょうね。それほど高い壁であるにもかかわらず、僕がミュージカル初挑戦作として飛び込んでみたいと思えたのは、まずこれが史実に基づいた物語だということ。新しい時代の価値観に目覚めた民衆が立ち上がり、民主制になっていく時代背景がすごく面白い。その中でもエリザベートという1人の女性が、時代の中で抑圧されている「自由」みたいなモノをはからずも呼び起こし、本当に一滴の血も流さずにハンガリー統合を成功させる。そんな歴史的な快挙を、自分の美貌だけでやってしまうわけですから(笑)、そのカリスマ性も興味深いですよね。あと山口さんもおっしゃったように、そこにトートという唯一の架空のキャラクターを設定したことで、計算された以上のケミストリーがストーリーの中に起きていると思います。

──確かにトート1人の存在だけで、ただの伝記では終わらない内容になってますよね。

武田 そうですよね。さらにエリザベートが良い人で、彼女を抑圧する王家が悪者という、勧善懲悪的な描かれ方だったら、絶対浅かったと思うんですよ。でもそうじゃなくて、エリザベートの姑であるゾフィーの生き方にも「これもありだな」と思わせる部分が存在する。誰が悪いとか良いとかじゃなく、その時代の中で翻弄されて変化していく人間のあり様が描かれているのが、魅力なのではと思います。

──特にトートを演じる上で、意識していることや自分なりのテーマなどはおありですか? たとえば初代トートの1人である内野聖陽さんは、パンフレットで「トートのテーマはエロス」という感じの発言をしてらっしゃいましたが……。

山口 彼が、その「エロス」を体現したことが素晴らしいですね(笑)。それは横で見ていて、なかなか楽しかったです。彼と僕は干支が一回り違うんですけど「この年齢でそんな表現をするのか!」と気付かされたりもして。そこから生まれてくる自分の心の変化……お芝居の中ならばどんどん膨らませていけるわけです。そうすると「なるほど! ここでこういう風になるんだ」と。それをあちこちで感じられたのが、すごく面白かったですよ。

──自分の中のネガティブな感情すら、反映できる役だと。

山口 そうですね。今「ネガティブ」っておっしゃったけど、そういう感情が発生すること自体に価値があると思えば、それがネガティブなモノでもポジティブなモノでも、どっちでもいいんです。「死」のトートを演じながら、生きるエネルギーを感じてるとでも言うんでしょうか? だから決してそれは、ネガティブなことじゃないんですね。それがなければ、もうパッションが無くなる……燃料切れみたいになるわけですから。それをあえて、共演者がガンガン燃料を入れてくれるという。これはいいことですよ。

武田 実際僕も、表現力から周囲への気配りまで素晴らしい山口さんに嫉妬心を感じてまして。でもそれは嫉妬に値するというか、僕の向上心を扇いで下さる存在だということ。嫉妬心といっても別にブーツをこっそり隠してやろうとか、そういうことじゃないです(一同笑)。

『初演の時は、「死」の解釈は人間が割り切れない部分でもあり、勢いみたいなモノで全ての要素を保有できると思ってたんですよ』(武田)

──そこで武田さんは、どういう思いでトートを演じられているのですか?

武田 これは小池(修一郎/演出)さんに言われたんですが、人が現実に立ち向かいすぎて疲れた時に求める「より所」として、思い描くような存在であってほしいと。それはエロスの時もあるだろうし、自分より知性的なモノ、野蛮なモノ、高貴なモノだったりするだろうと。そういういろんな面を、特に今回は観せてみたい。そのときどきで、エリザベートが求めているモノを表現できればいいですね。そのどれか1つは観た方の中に残るよう、自分の中にいろいろな面を持って演じていきたいです。

──山口さんは2000年の初演からずっとこの作品に関わっていますが、8年が過ぎてこの作品や、あるいはご自身の変化を具体的に感じられたりはしますか?

山口 そうですね、作品も自分自身もいろんな変化がありました。そのときどきで1つ1つが、自分の中に残っています。

武田 山口さんが演じている間にも、増えたり減ったりした楽曲があるそうですね?

山口 ありました。もちろん楽曲の変化もありますし、何よりもそのときどきのお客様の反応が、僕が気付いていないことを気付かせていただくというか……自分がどれほどモノを知らなかったかというのを、演じるたびに教えられるんですよね。この作品でそういうチャンスをいただけたのには、すごく感謝しています。あと言えることは、果物は枝から落ちる寸前が一番美味しいというけれど、ある意味今がその時期じゃないかなと。その時間は結構短くて……もしかしたら落ちる前じゃなく、もう落下してる最中かもしれない(笑)。そう考えると、トートを演じるこの瞬間や、この作品に対して、いっそう愛しさやはかなさを覚えますよね。いまや僕にとってはそれが生活になっていて、作品について語りながら、まるで自分のことを語っているような気分になっている。もう『エリザベート』とは、それぐらいの関係になっているのかなと思います。

── 一方で武田さんはこれが2度目のトートですが、今まで名古屋や博多で演じられて、改めて見えてきたモノなどはありますか?

武田 初演の時は、まだトートがうまく理解できなかったんですよね。「死」の解釈は人間が割り切れない部分もあるわけだから、「大は小を兼ねる」じゃないけど、何か勢いみたいなモノで全ての要素を保有できると思ってたんですよ。でも今はやっと、それだけじゃないなというのが理解できるようになってきて。なのでさっき言った通り、より多様化したスタイルでトートを演じていきたいです。

──ちなみに次は大阪公演ですが、何か他地域との気分的な違いなどはありますか?

武田 特に大阪だからとかは、多分全然考えないですね。ただ静かに観客の心に忍び込むような、歌とか演技ができればなあとは思います。

山口 でもやっぱり関西は宝塚がありますからね。そしてなんといっても『エリザベート』のメッカですから。メッカでやるというのは、やっぱりちょっと普段とは違う何かがあると思いますね。それはまあ、何が起こるかお楽しみと言うことで。

──では最後に、今回全キャストの方に統一で聞いている質問です。この作品はエリザベートがトートを迎え入れる=死を受け入れることで終わるわけですが、ご自身は「これができたらトートが来てもいい」と思えることは、何かありますか?

山口 ……もうね、一緒にいるかもしれない(笑)。そういう思いを持ちながら、それでも「まだいてもいいかな? それには何ができるかな?」と考えるという。それもまた、楽しいですよ。

武田 僕はまだミュージカルの世界に飛び込んだばかりで、自分ができることの引き出しの狭さとかに、日々苦しんでる所なんです。でも一方でそういう課題や、目の前に立ちはだかる目標をこなすことに、すごく生命力を感じている。なのでトートを演じながらも、自分の側に死神の存在を全く感じていないという、ある種脳天気な状態にあるのかもしれません(笑)。だからその質問の答えとしては、自分が思い描くトート像をやり切った時には、トートに迎えに来て欲しいと思います。

取材・文/吉永美和子
撮影/成田直茂

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