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ミュージカル特別対談 ブロードウェイに詳しい2人のライターが今年のトニー賞を語りまくる!

SPECIAL TALK
ミュージカル特別対談

兵藤あおみ

兵藤あおみ:演劇ライター
シアターガイド編集部出身。年に2~3度NYを訪れ、ブロードウェイの新作をチェックするのをライフワークとしている。生粋のレントヘッド。

町田麻子

町田麻子:フリーライター(演劇、ダンス、美術)
早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒。10代からブロードウェイ観劇旅行を毎年続けるミュージカルおたく。でもやっぱり日本語で観たいので趣味は翻訳版の妄想キャスティングです。好きな作品『レ・ミゼラブル』etc.

『ハミルトン』はモンスター級

兵藤 町田さんは今シーズン、何をご覧になったの?

町田 私は1月に1度行ったきりで。まだ 『ハミルトン』 『スクール・オブ・ロック』 『春のめざめ』 くらいしか観ていないんです。

兵藤 (町田の手元のプレイビルを見ながら) 『オン・ユア・フィート!』 も観てるじゃん!

町田 唯一、振付賞にノミネートされただけですよね。主演女優賞ぐらい入るかなと思ったんですけど。あと、『アレジアンス(忠誠)』 がね……見事に何の候補にも挙がらなかったという。

兵藤 そうだったね。興業的にうまくいかず、すぐに閉まっちゃったけれど、私は意義のある作品だったと思う。ハッピーな作品が多く目立つ最近のブロードウェイで、よくオープンしたなと。

町田 兵藤さんは 『アレジアンス(忠誠)』 のほかに、何をご覧になったんですか?

兵藤 ミュージカルの新作では 『スクール・オブ・ロック』 『アメリカン・サイコ』 『ディザスター!』 『タック・エヴァーラスティング』 『シャッフル・アロング』 『ウェイトレス』、リバイバルが『春のめざめ』 『カラーパープル』 『屋根の上のヴァイオリン弾き』 『シー・ラヴズ・ミー』 。あと 『父』 と 『ヒューマンズ』 という新作プレイを観ました。

町田 いいなぁ! 『ディザスター!』 をご覧になれたなんて、貴重ですよ。

兵藤 今季最大のフロップだったからね。閉まる前に観られて良かった(笑)。ということで、まずはミュージカル部門の作品賞から話していこうと思います。もうこれは、どのショーに行くか決まっている感じだし、それを観たのは町田さんだけだから。存分に語ってちょうだい(笑)!

町田 (笑)。確かに、候補5作品のうち、2本しか観られていない私ですが、やっぱり 『ハミルトン』 だろうなって言えちゃうところはあって。それくらい本当に、すごい作品でした。過去20年くらいさかのぼっても、これだけの作品はないだろうなっていうくらいに。


『ハミルトン』PHOTO=JOAN MARCUS

兵藤 どうすごかったか詳しく教えてくれる?

町田 バカみたいで恐縮なんですけど、やっぱり“かっこいいこと”がすべてだと思っていて。 『ハミルトン』 って、アメリカ合衆国建国の様子を描いた時代劇ですよね? それにラップ音楽を使って、こんなにかっこよくハマるなんて……誰が予想できただろうと。もちろん、脚本・作詞作曲・主演のリン-マニュエル・ミランダをはじめ、キャストやスタッフみんなの才能の賜物ではあるんですが、最終的には神がかり的な何かが降りてきたんだねっていう感じが、すごくして。奇跡的にすべてのピースがはまっているんです。どうしたら伝わるんだろう……悪い作品の例を挙げて、こうじゃないってところを言えばいいのか……(苦笑)。

兵藤 なるほど、観に行った者にしか味わえない特別な何かがあるってことね。

町田 チケットを取るだけでも大変なショーなので、客席の温度も高いんです。みんな「ようやく来たぜ!」って感じで(笑)。ほとんどの人がCDを聴き込んで来ているようで、開演と同時に鼻歌も始まっちゃうみたいな。とにかくすごい盛り上がり。その熱さに多少影響されて、よりよく見えている部分もあるかもしれませんが。

兵藤 建国の父の一人、アレクサンダー・ハミルトンを主人公にした作品だけど、日本でいうところの誰かな? 坂本龍馬とか?

町田 確かに、日本の幕末とリンクしますね。

兵藤 10ドル札の顔にもなっていて、ニューヨークにゆかりのある偉人。そんなハミルトンの物語に、アメリカ人の大好きな“アメリカン・ドリーム”と“愛国心”といったテーマを詰め込んで、ラップで届ける。そうした作品の新しさやクオリティーと、作り手たち、演者の想い、そしてお客さんたちの熱狂と、みんなで生み出したモンスター級のブームが、今シーズンを一気に飲み込んだって感じがする。観ていなくても、すごいんだろうなって容易に想像できるもの。


兵藤あおみ

町田 私、わりと判官贔屓っていうか、みんなが「いい」って言う作品が、ダメだったりするんですよ。周りの盛り上がりに逆に冷めてしまうというか……。だから、 『ハミルトン』 を観る前、ちょっと心配していて。でも、蓋を開けてみたら、全然大丈夫でした(笑)。すべてがほんとに良くって。ほかの作品を観ていないくせに、「やっぱり 『ハミルトン 』が一番でしょ」って思えちゃうんですよ。

兵藤 同じ候補作である 『スクール・オブ・ロック』 については?

町田 悪い作品じゃないんですけど、……新しくないですよねぇ。もとの映画の通りだし。そうなるだろうねっていう予想がついちゃう。

兵藤 うん。普通に楽しいんだけど、サプライズがなかったね。それは、ほかの3作品にも言えるかも。 『ウェイトレス』 は同じく映画をミュージカル化したものだから、ストーリーが読めちゃう。あと、楽曲はどれもいいメロディーなんだけど、帰る時に口ずさめるようなキャッチーさがない。あと、主演女優が 『ビューティフル』 でトニー賞を獲ったジェシー・ミューラーなんだけど、女性の自立っていう作品テーマが 『ビューティフル』 とかぶるんだよね。そのせいか、既視感をぬぐえない。すごくチャーミングな作品なんだけど、惜しいな!って感じだった。

町田 なるほど。 『シャッフル・アロング』 はどうでした? すごく観たい作品なんですが。

兵藤 1921年に初演された 『シャッフル・アロング』 という作品にかかわった人たちの姿を描いた群像劇なんだけど、クリエーターもキャストも豪華で、彼らが持っているものを惜しみなく披露しているって感じ。ただ、ちょっと長くて、途中間延びして見える部分があったかな。良かったけど、 『ハミルトン』 をしのぐほどの作品ではないかも。


『シャッフル・アロング』PHOTO=JULIETA CERVANTES

町田 でも、分からないですよ。番狂わせがある可能性も……。

兵藤 確かに、何があるか分からないのがトニー賞!

町田 そう、 『アベニューQ』 が 『ウィキッド』 を抑えて受賞するみたいな、驚きの展開が過去にもあったので。もしかしたら 『ブライト・スター』 が?

兵藤 大穴だよね。正直、観ていないからなんとも言えないんだけど、この一枠には 『アメリカン・サイコ 』や 『アレジアンス(忠誠)』 といった、チャレンジングな作品が欲しかった印象。

町田 『ブライト・スター』 ってブルーグラスのやつでしたっけ?


町田麻子

兵藤 そう、俳優のスティーヴ・マーティン作曲のね。ある女性の過去がだんだん明らかになるっていう、実際に起こった出来事にインスパイアされた感動ドラマで、主演女優が頑張っているし、音楽もキレイだって評判は聞いていたんだけど……枠が足りないからスルーしちゃったんですよ。で、今「観ておけばよかった!」と後悔しているところ(苦笑)。

町田 その気持ち、よく分かります。

兵藤 ということで、作品賞の受賞予想はお互いに 『ハミルトン』 って感じだね。ほかにも、脚本賞、楽曲賞、編曲賞も持っていく気がするんだけど(笑)?

町田 少数意見なのは承知の上で言いますけど…… 『ハミルトン』 で何が一番良かったかっていうと、編曲ではないかという気が私はしていて。みんな、楽曲がかっこいいのはリン-マニュエルのおかげだと思っているかもしれませんが、実はアレックス・ラカモアによるところも大きいと思うんですよ。リン-マニュエルの前作 『イン・ザ・ハイツ』 でも編曲を手掛けていて、私が観た 『ハミルトン』 では指揮も彼でした。私、彼が大好きなので、ぜひトニーを獲ってほしい!