“音楽の父”バッハをテーマにおくる今年の『ラ・フォル・ジュルネ』は、盛大で画期的な“バロック音楽の祭典”に!

※都合により出演者、曲目が変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。
「一流の演奏を低料金で提供することによって、明日のクラシック音楽を支える新しい聴衆を開拓したい」アーティスティック・ディレクターを務めるルネ・マルタンのそんな想いを形にした、フランス・ナント生まれの夢のような音楽祭『ラ・フォル・ジュルネ』。日本では2005年から『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭』(LFJ)として東京国際フォーラムを中心に開催。オフィス街である丸の内周辺をクラシック音楽のユートピアに変えてしまう一大イヴェントは大きな反響を呼び、今ではゴールデンウィークの風物詩として定着するほどに発展している。
5年目となる今回は、“Bach is Back!バッハが時空を超えて帰ってくる!”そう、来場者からのアンケートでも最も希望の多かった、大バッハとも呼ばれるヨハン・セバスティアン・バッハを中心に、内外の演奏家を集めて約200もの公演が行われるのだ。
“音楽の父”とも称されるヨハン・セバスティアン・バッハは、ヘンデルと同年の1685年に生まれ、1750年に亡くなるまでに膨大な作品を創作した。宮廷楽長、オルガニスト、そして聖トーマス教会の楽長を務めたキャリアを映すように、ヴァイオリンやチェロ一台の無伴奏による器楽作品から、二群の合唱、オーケストラに独唱を加えた大規模な声楽作品、また自身が演奏する作品でもあるクラヴィーア作品など、多彩なジャンルに数多くの名作を残している。彼自身は、イギリスで活躍したヘンデルやモーツァルト、ハイドンのようにドイツ国外で活躍することはなかったが、当時貴重品だった数多くの書物や楽譜、また先達の指導などによって同時代の音楽にも通暁していた。ヴィヴァルディの作品を編曲して己のものとするなど貪欲さは驚くべきものだった。
現在でこそ史上最高の音楽家のひとりとして認められるバッハだが、その彼でさえ歴史の中で何度か忘れられ、そして再発見されてきた。例えば、モーツァルトは晩年まで彼の息子である“ロンドンのバッハ”ことヨハン・クリスティアンとは面識があったがヨハン・セバスティアンの音楽は知らなかった。とはいえさすがはモーツァルト、バッハを知った後には大いに影響され、その語法を貪欲に吸収してみせたのだが。また、今でこそ最高の作品として評価される「マタイ受難曲」は、1829年のメンデルスゾーンによる蘇演まで百年近くも忘れられた存在だった。
しかしそんな冬の時代を経て、メンデルスゾーンの蘇演を契機にドイツ音楽の源流としてその作品の多くが受容されていく。シューマンやブゾーニらによる編曲ものなどから、多くの作品が再び高い評価を受けるようになるのだ。その流れを受けて20世紀に入ると、ワンダ・ランドフスカによるチェンバロの“再発見”、パブロ・カザルスによる無伴奏チェロ組曲の“再発見”、ストコフスキーやヴェーベルン、シェーンベルクのオーケストラ編曲によるさまざまな変容、などバッハの作品自体に負けぬほど、多様な方法でバッハの作品は広く受け入れられるようになる。
そして20世紀半ばごろから、作曲された当時の楽器、奏法を考証によって再現する試みが広く行われて今に至る。グスタフ・レオンハルトやニコラウス・アーノンクール、フランス・ブリュッヘンやジギスヴァルト・クイケンら、現在も活躍するマエストロたち、そしてその弟子たちが考証と実践によって、古楽は新鮮な音楽でありうる、という逆説的な認識がもたらされたのだ! また、クラシック音楽の文脈とは異なるアプローチではあるものの、ポップスやジャズへの編曲でも親しまれ、昨今ではヒップホップに「G線上のアリア」が用いられたりもしている。いやはや、ジャンルさえ超えてしまうバッハ作品の拡がりたるや驚くべきものがあるが、おそらくはこう捉えるべきなのだ。バッハの音楽にはそれだけの可能性が秘められている、と。
そのような可能性に満ちた作品群が次々と演奏される、数百もの公演を前にどう聴いたらいいものか、途方に暮れてしまうのはあまりにももったいない。ここには多様なスタイルの、それぞれ最高の音楽家たちが集うのだから! そう、せっかくの『LFJ』なのだから、気の赴くままに供されるままにバッハの名曲を聴いていくのも好いだろう。「トッカータとフーガ」、「G線上のアリア」、「マタイ受難曲」……数え切れないほどの名曲があなたを待っている。
いや、もちろん自分なりのこだわりを持って、あらかじめ綿密にメニューを組んで、このお祭りを心ゆくまで楽しむのもいいだろう。クラヴィーア作品や、声楽作品だけをお目当てにするもよし、作曲当時の楽器による演奏に絞ったり、ブラームスやブゾーニから細川俊夫、またジャズやクロスオーバーにいたる編曲ものを追っかけたり。さらには、一般にはあまり知られていないけれど「古楽大国」である日本が誇る、古楽、モダンそれぞれの名手たちの演奏……いや、いっそバッハ以外の作品に絞ってもこのゴールデンウィークを存分に楽しめるほどに多くのコンサートが用意されている。楽しみかたはあなた次第、なのだ。
200年以上に及ぶ多種多様なバッハ受容が一度に示される、まさに「時空を超える」一大イヴェントとなるであろう今年の『LFJ』。天才の残した最高の音楽を、最高の演奏で楽しむこの好機、クラシック初心者から熱心なバロック・マニア(バロクー!)の方々まで、ぜひとも心ゆくまで味わっていただきたい!
毎回、オリジナリティ溢れるプログラムで聴衆を“熱狂”に陥れる『LFJ』。数ある魅力的公演の中から注目のオススメ公演をピックアップ!
「G線上のアリア」をぜひ実演で聴いてみたい!と思われる向きにはこの公演を。当時のフランス舞曲のスタイルで作曲された管弦楽組曲は実に優美な作品が並ぶ。「アリア」だけ、なんて言わず、ぜひコンサートで全曲を聴いてほしいところだ。
そこでオススメするのがベルリン古楽アカデミーの公演。録音でも高い評価を受ける彼らの真摯な演奏は、きっとバッハの真髄を教えてくれることだろう!
バッハの無伴奏作品の中でも、もっとも知られている一つ、バッハの無伴奏チェロ組曲。今回の『LFJ』では何人かの名手たちが聴かせてくれるけれど、中でもオススメのチェリストは、現代を代表するピーター・ウィスペルウェイ。古楽器、モダン楽器を作品に応じて使い分ける才人の「無伴奏チェロ」、最高の演奏が期待できる!
グールドの演奏によって広く知られる「ゴルトベルク協奏曲」。もともとは、現代のようにピアノではなくチェンバロで演奏されたものだが、ここではあえて、弦楽トリオによる演奏用に編曲されたものをオススメする。名ヴァイオリニスト、ドミトリー・シトコヴェツキーによる編曲版を、日本が誇るヴィオラ奏者、今井信子らが演奏する。
この編成で名手揃いときては、チェンバロなどの鍵盤楽器で演奏する以上に、バッハの音楽の特徴である対位法がより明瞭に聴きとれるはず。変り種、なんて先入観で聴かないのはもったいない、ぜひこの機会にお試しあれ!
20世紀のバッハ受容において、大きな位置を占めるのがオーケストラ編曲によるバッハ演奏だ。数多くの取組みの中でも、自身がオルガニストでもあった名指揮者レオポルト・ストコフスキーによるものは、数多くの編曲、演奏が今なお高く評価されている。その編曲の数々に加えて、小澤征爾の師としても知られる斎藤秀雄による編曲を交えて演奏するのが小泉和裕指揮東京都交響楽団による演奏会だ。
近年ますます評価の高まる小泉の指揮の下、東京都交響楽団がゴージャスなサウンドで描き出す壮大なバッハの世界を存分に楽しんでほしい。「トッカータとフーガ」やヴァイオリン独奏曲「シャコンヌ」など有名な作品が、オーケストラによりさらに多彩な美しさを見せることだろう!
それぞれ異なる個性、編成の「ブランデンブルク協奏曲」からオススメするのは、「最初のピアノ(クラヴィーア)協奏曲」とも言われるブランデンブルク協奏曲第5番。なるほど、第一楽章終盤で繰り広げられる長大なカデンツァは圧巻の一言!
今回は『ラ・フォル・ジュルネ』発祥の地ナントを拠点に活躍する、フランスの誇るアンサンブル「ストラディヴァリア」の演奏が楽しめる。チェンバロ独奏のベルトラン・キュイエの名技に期待しよう!
バッハに大きな影響を与えた作曲家の一人、ヴィヴァルディ。彼のもっとも有名な作品であるヴァイオリン協奏曲集「四季」がプログラムされた。イタリアン・バロックの名手ファビオ・ビオンディの独奏と、彼率いるエウローパ・ガランテの絢爛たる演奏を、説明抜きでお楽しみ下さい!
日本が世界に誇れるオリジナル楽器オーケストラと合唱団、バッハ・コレギウム・ジャパンの参加は嬉しい驚きだ。それも、バッハの宗教作品の中でも最高傑作のひとつとして知られる「ヨハネ受難曲」を演奏してくれるのだから!
聖トーマス教会の音楽監督(カントル)として作曲した最初の受難曲は、「マタイ」とはまた異なる個性を持つ名作だ。凝縮された世界、美しい音楽を鈴木雅明率いるバッハ・コレギウム・ジャパンの演奏で堪能してほしい。
ピアノの練習でバッハの作品に親しんだ方も多いかと思う。しかし、ブゾーニやブラームスの編曲版となるとそう簡単にはいかない。ピアノの技法を最大限に活かす編曲で、美麗なサウンドを創りあげる編曲版を演奏する公演の中からここで紹介するのは、若きフランスのピアニスト、ジャン=フレデリック・ヌーブルジェによるコンサートだ。
自らも、バッハをピアノで演奏するために編曲するなど、バッハ作品へ積極的に取り組むジャン=フレデリック・ヌーブルジェ渾身のプログラムは見逃せない。
クラシック音楽最高の作品とも言われる「マタイ受難曲」。この演奏時間三時間に及ぶ大曲が演奏されるのは、演奏時間45分程度を目安とする『LFJ』としては破格のことだ。いささか敷居が高く感じられるかもしれないが、二群の合唱とオーケストラ、そして少年合唱と独唱者たちが創りあげる受難物語をぜひ体験していただきたい!
この名曲で今回の『LFJ』を締めくくるのは、巨匠ミシェル・コルボ率いるローザンヌ声楽・器楽アンサンブルと独唱者たち。ぜひ、宗教作品の演奏で高い評価を受けるマエストロ・コルボの音楽に耳を澄ませてほしい。劇的にして壮大な宇宙がきっと、東京国際フォーラムに顕われることだろう……。
文/藤原琢磨
メイン会場となる東京国際フォーラムでは、『LFJ』の期間中テーマにそったホール名が付けられる。今回は、バッハ縁のドイツの地名、アイゼナハ、リューネブルク、アルンシュタット、ミュールハウゼン、ヴァイマール、ケーテン、ライプツィヒが各公演会場名となった。生誕の地アイゼナハから終焉の地ライプツィヒまで、演目はもちろんだが、会場からもバッハの生涯が感じられる趣向となっているのだ!
『ラ・フォル・ジュルネ』は、1995年にフランス北西部の港町ナントで誕生。アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンが「一流の演奏を低料金で提供することによって、明日のクラシック音楽を支える新しい聴衆を開拓したい」と、毎年テーマとなる作曲家を設定して、その作曲家の音楽を旬の演奏家やビックネームたちが低料金・短時間(約45分)のコンサートを同時多発的に多数開催している、世界にも類を見ない音楽祭。「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」のネーミングそのまま、ヨーロッパの数ある音楽祭の中でもっともエキサイティングな展開を見せている。2000年からポルトガル・リスボン、2002年からはスペイン・ビルバオでも行われ、2005年にはヨーロッパ以外では初となった『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭』が東京国際フォーラムを中心に開催された。
日本においては、低料金・短時間という従来のクラシックコンサートのスタイルや常識、概念を飛び越えた音楽祭が、普段クラシックに馴染みのない層にも、クラシック音楽の持つ魅力を存分にアピール。これまでに来場者数100万人を越え、世界でも最大級の音楽祭に発展している。